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 そう言われたら無下にでいなくてとりあえず連絡先だけは交換した。…そう、交換はした。どうなるかは置いといてっ樹くん言ってたし。


 私の連絡先が自分の携帯に追加されたのを見て満足そうに笑った樹くん。そのまま飲み物を飲んで少し経った頃、「そろそろどうかなー」なんて立ち上がる。


 天気が良かったおかげですっかり乾いた私の服を取り込んで渡してくれる。受け取ったそれにすぐに着替える。


 出来るだけ、さっさとここから出て行きたかったし。


 着替えて、ココアを飲み切って。「そろそろ帰るね」なんて言えば、樹くんが「もう?」なんて言う。



 「ん。いつまでもお邪魔できないし」
樹「俺は別にいいんだけど…。つーか一人で帰れる?道分かる?」



 カバンの中身を確認しながら立ち上がった私に聞く。…そう言われれば道が分からない。



樹「バーくらいまで送ろうか?」
 「…お願いします」



 コーヒーを飲み切って立ち上がる。そして、緩い格好のまま玄関でサンダルを履く。それに続いて自分の靴を履き、二人で樹くんの家を出た。


 そんなに離れていないバーまでゆっくりと歩く。離れていないから、どんなにゆっくりでもすぐ着くんだけど。



樹「じゃ、気を付けてね」



 そういう樹くん。…家に行ってからの行動には後悔しかないけど、この人のおかげで、昨日のあの苦しさが少しマシになった。だから、ちょっとだけ、感謝の気持ちはある。



 「…色々と、ありがと」
樹「いーえ。俺の方こそって感じだし」
 「じゃ。バイバイ」



 家に帰りたくなかったのに足が家の方に向くのも、気持ちが少し楽なのも、びしょ濡れのままでいなくて済んだことも。全部この人のおかげだったな。


 小さく手を振ってくれる樹くんのほうに頭を少し下げる。連絡先はあるけど、多分、もう会うことはないな。





 それから少し経って、たまに寂しさを感じることもありながら普通に過ごしていた。起きて、仕事に行って、帰ってきて寝て。たまに買い物とかに出掛けて。その中にないのは彼氏とのデート、ってくらい。


 その日も仕事終わりだった。家に帰って、ダラダラとしていたところに携帯が鳴る。仕事の連絡かと思い何気なく開いた携帯。そこには「樹」の文字。


 思わず飛び起きて、携帯の中身を確認する。だって、あの日以来一回も連絡とってないんだから。驚くのが普通だろう。

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作者名:天羽 | 作成日時:2022年6月15日 2時

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