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 自分で呼び方を決めてきたくせに、その名前を呼ぶ前に、呼ぶために吸った息は樹くんの口の中に吸い込まれていった。



 思い返せば、今日別れた彼氏とも最近はなかった触れ合い。人のそれに触れて、そのまま流されていく。何度も何度も深く口をつけて、樹くんの手によってどんどん自分を剥がされて。


 お酒に酔っていたから、傷心だったから、相手も同じような状況にあったから。色々な理由は浮かぶ。けど、その状況に流されたのは自分で。


 いつの間にか連れてこられていたベットの上で、目の前の男がどういう思いで私を見下ろしているのか、わからなかったけど、片方の口角が上がるのを見た瞬間に、「戻れない」そう感じた。



 …気付いたときには夜が明けていた。いつの間にか眠っていたようで、目を覚ますと外が明るかった。のそのそとベットから起き上がる。ヒヤッとしてた空気を感じて自分が何も纏ってないことに気付いた。


 周りを見渡しても自分の服は見当たらず。でも、サイドテーブルのところに畳まれた服が置いてある。多分樹くんの。…着ていいってこと?


 勝手にそう解釈して、横でまだ寝ている樹くんに心の中で「借ります」と呟いた。とりあえず上の服だけ着てこれからどうするかを考える。


 酒の勢いで流されてしまった。こんなつもりではなかった。…でも、その一瞬はあのことを忘れられていた。あのバーで、樹くんに言われたように。


 でも、そういう関係の人を作りたいわけではない。だから、多分この人とはこれっきり。…だとしたら、この人が起きるよりも先にこの部屋を後にしたいけど、服の行方が分からない。探すためとはいえ人の家を勝手に歩き回るのは申し訳ない気がするし…。


 あぁ、考えるの嫌になってきた。…久々に呑みすぎたせいか、頭も痛いし。


 頭の痛みを自覚したら、なんだかその痛みが増してきたような気がする。……どうしようもないし、この人起きるまで私ももう一回布団に入ろう。のそのそとベットの中に戻り、私の方を向いていた樹くんの顔を見る。…この人、かっこいいくせに寝顔すごくない?半目だよ?そのせいで黒目ちょっと見えてるし。口も開いちゃってるし。


 なんだかその顔が面白くて「ふふっ」と声が漏れる。ぐっすり寝ていたくせに、私の笑い声が聞こえたのか、半分開いていた目が一度ぎゅっとつぶられて、ゆっくりと開く。




樹「…おはよ」

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作者名:天羽 | 作成日時:2022年6月15日 2時

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