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樹「いやそうよ、二人で」
「…え？」
酔っていても分かる熱のこもった視線と声。
樹「利用して、俺のこと」
「利用…」
樹「お酒に頼んなくても忘れられるように」
頭に直接届く声。酔ってフワフワした頭でもそれが良くないこと、戻れなくなってしまう危険性のあるものだとわかるのに。
熱と悲しさの籠った視線で見られ、重ねられた手にスルッと私の指をなぞるように動かれると……どうしようもなく縋ってしまいそうになる。
樹「ねぇ、どうする？」
もう一歩分、距離を詰められた瞬間に感じた甘い香り。多分、樹さんの香水の匂い。距離が近づき、匂いを感じて、決定権を委ねられる。
ダメだ、ってわかっているのに、頷いてしまった。
あの時の私はだいぶ酔っていた。正常な判断が出来なかった。そのせいで、縋ってしまった。
樹「なら、とりあえず俺ん家行こうか。こっからそんなに離れてないし。…雨もやまないしね」
マスターを呼ぶ樹さん。私ていたていた表情とは違う、やわらかい笑みを浮かべて会計を進めていく。流れるように私の分まで払ってくれる。お店出たらお礼言おう、なんて思いながら窓の外を眺めれば、樹さんの言う通り、雨はやんでいなかった。…むしろ、強くなっていた。
心よくお店に入れてくれてタオルまで貸してくれた優しいマスターにお礼を言って、席を立つ。
樹「ほらー、酔いすぎ」
ふらついてしまった私を支えてくれる樹さん。そのせいで縮まる距離と、体に触れた手に不覚にもドキッとしてしまった。
お店を出て、ふらつく体を支えてもらいながら雨の中、一緒に歩き、樹さんの家についた。
ルームフレグランスの甘い香りと樹さんの匂い。
それに包まれながらソファに座らせられ、二人でお酒を飲んだ。今思えばここで水じゃなくてお酒を出すところに「もっと酔わせてやろう」みたいなものを感じる。
お酒を飲みながらまた私の話を聞いてくれる。別れた彼との思い出とかを。それを話すうちにまた涙が出てきたところで隣に座ってた樹さんがまた身を寄せてくる。
スルッと私の腰に腕を回して私自身を近づける。空いている方の手で私の涙を拭う。そしてそのまま近づいてくる顔。
「っ樹さん…。待って」
思わず手を顔の前に出して止めようとするけど、酔って力の入らない体でのそれはすぐにどけられる。
樹「樹…あー、樹くんって呼んで」
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作者名：天羽
| 作成日時：2022年6月15日 2時
