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 また、田中くんと一緒に花火が見える方へ進む。ただ、さっきまでとはやっぱり気持ちが違う。浮かれが一つもない。目線は人混みの中にあのピンク色と後ろ姿を探したまま。


 人混みと田中くんとはぐれてはいけないという必死さ。夏祭りのカラフルさと、すれ違う田中くんの知り合いや学校の人たちの視線。沈んだ気持ち。


 なんだか、気持ち悪い。


 思わず、田中くんの服の裾を掴む。



樹「Aちゃん?」



 いつもなら絶対にしない行動に驚いたように田中くんがこっちを見る。



 「ごめん、人酔い、したかも、」



 ざわざわとした音に飲まれないように出せるだけの声を出して田中くんに伝える。私の声は聞こえたようで田中くんはかがんで俯いた私の顔を覗き込む。



樹「大丈夫?ちょっと離れるか」



 田中くんの服の裾を掴んでいた手を握られる。それを振りほどく気力もない。引っ張られるようにして歩きながら人混みを抜けていく。



樹「どっか座れた方いいよな」



 ポソッとそうつぶやいてどんどん進んでいく。人混みを抜けてからは少しペースを落としてくれて何度も「大丈夫?」と声をかけてくれた。



樹「ここ、座って」



 グルグルと回るような視界の中で田中くんに促されるままベンチであろう所に座る。そのまま顔を手で覆って蹲るような体勢になる。なんとなく回るような感じがする。それを抑えるようにぎゅっと目をつむる。



樹「ちょっと待ってて。ここいてよ」



 田中くんに声にうなづく。その途端足音が遠ざかる。すごく悔しいことに、その足音が遠くなるのに寂しさみたいなものを感じてしまった。そう感じてしまったのは人酔いなのか、体調がおかしいからだ。そのはずだ。


 少しして小走りする足音が近づいてくる。その音は目の前に来た。



樹「大丈夫?」
 「…さっきよりは」



 田中くんを待ってる間。座って夜風にあたってるうちに少しだけグルグルする感覚がおさまった。目を開けて顔を覆っていた手を外して声のする方を見る。



樹「うわ、顔色わっる」
 「…そんなに?」
樹「真っ青。水、飲めそう?」



 ベンチに座る私の前にしゃがみこんで顔を覗き込む。心底心配、という顔で差し出された水を受け取る。中身は減っている様子はないのに蓋はゆるい。空けててくれたらしい。ゆっくり少しだけ水を飲み込むと冷たいものが体内を流れていく感覚が気持ちよくてまた少しだけスッキリしたような気がした。

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作者名:天羽 | 作成日時:2022年5月12日 2時

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