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「いこっか」と田中くんが言うから私たちも人の流れにのって花火が良く見える場所の方へ自然と向かっていく。
花火の時間も近くなり、本当に人が増えた。普通に歩いてるだけでもはぐれそうになる瞬間があるくらい。だけど、田中くんはさりげなく、私の様子を窺ってはぐれないように気を付けてくれている。
改めて「こういうところが男女問わず友達多くてモテる理由か」なんて思う。
「樹じゃーん！」
男女問わず友達が多いから、こいつはよく引き止められる。高校のだけじゃなく中学とかの友だちであろう見覚えのない人にも話しかけられている。その度に止まって道の端っこで田中くんたちの話が終わるのを待つ。
その間、私は意味もなく人混みを眺める。…意味もなく、あの二人の姿をまた探してしまっていた。
元カレのことを引きずっているわけではない。でも、やっぱりあいつが他の女の子といるところを目にすると気にしてしまうみたいで、探してしまう。また見たところで別にいい気持ちになるわけでもないのに。
(何やってんだろ…)
自分の行動の意味のなさに呆れてため息をついた。その瞬間に視線に気付く。田中くんか？なんて思ってそっちに顔を向ける。
そこには女の子がいた。田中くんと話している、女の子たちの視線。
改めて、こいつはモテる。そんなモテる人がここ最近私を追いかけまわしてる大抵の人は私の拒否具合を見て「頑張れ」とか言いながら面白がってくる。でも、やっぱり一定数、私をよく思わない人もいる、というのも知っている。自分の好きな男がかわいくもなんともない女を追っかけて無視されたりなんかしてたら、普通に嫌悪の感情がその女に向く。理解できる。
今だってそう。女の子たちから向けられてる視線には「なんでこいつが一緒にお祭りなんて来てんだ。いつもあんな態度のくせに」みたいなモノが入ってる。
こっちまで嫌な気持ちになるような視線、人混み、その人混みの中で探してしまう見たら沈んでしまうような光景。ちょっとだけ楽しかった気持ちがすべて消えていくよう。
樹「おまたせ。…Aちゃん？」
「なに。終わったの？」
樹「ん。終わったけど…ねえ、体調悪い？」
「別に悪くない」
樹「…そう？なら、いいんだけど」
「いいんだけど」なんて言いながら心配そうな、悲しそうな顔をする。なんで田中くんがそんな顔をするのか。私にはわからなかった。
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作者名：天羽
| 作成日時：2022年5月12日 2時
