『でも、もうやめる』 ページ7
.
正直、何度も目をもう覚まさないんじゃないかって、このままいなくなってしまうんじゃないかって。そんなよくないことを考えた。
俺のしたいことも、聞きたいことも何も叶わず、Aがいなくなってしまう。
そんなことを考えてはここに来るのを止められなかった。朝になって、もうAがこの世界にいない、なんてことになってしまうことを想像してはAに会いたくなってしょうがなかった。この見慣れた寝顔を見ながら「Aが起きなかったら俺はどうしたらいい？」って何度心の中で聞いたことか。
俺は、Aがいない毎日を好きにはなれないらしい。何度もAのいない毎日だって“楽しい”と“面白い”と自分を思いこませて好きになろうとしたけど、そんなのは無理で。逆に思い込もうとするたびにAの影がみえて、より物足りなさを感じた。
少し変な言い方をすれば「毒」だった。Aといた毎日は「毒」。Aがいない、毒のない毎日は物足りない。じんわりと俺の心にずっと優しく染み込んでいた毒。毎日毎日染み込ませていたのに、それがなくなって染み込んでいたものが抜けていってしまえばそれを求めてしまう。そんな毒。
毒、なんて言い方をしたくなるほど、求めてしまう。楽しかったAとの毎日を。
だから、俺は、どれだけ頑張ってもAがいない毎日を好きにはなれない。そう気づいたのは割と早い時期だったから好きになろうと頑張った。どんな思い込みも聞かなかったけど、俺なりに頑張った。…何なら今だって頑張ってんの。Aがいない毎日に慣れるため、好きになるために、俺は、もうAに会いに来るのを止めるよ。
涙と共に口から出た俺の願いの数々。俺の語彙力ではうまく言葉に出せない思いはつないだ手から伝わるようにと、ぎゅっと手に力を込めて伝えて。
すべて伝えきって、俺は自分の涙を拭うために、わざと繋いていた手を離した。Aの手が俺の都合よく言えば名残惜しそうに俺の手を掴んだままでいようとしたけど、そんなに力の入っていないAの手なんてすぐにするりと抜けて行ってしまう。
その手がベットにポトッと落ちたのを見て、「これで終わり」と実感した。もう、Aが本当に目を覚まさなくなるまで、俺が一番あってほしくないと思う状態になるまで会えないかもしれない。…それでも、俺は今の状況でも楽しいと、Aのいない毎日もいいもんだって思えるようにもう、やめるから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 296人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蝶-アゲハ-(プロフ) - はじめまして！先日このお話に出会い今までにない話の展開で面白くて読ませていただいておりました。少し前に完結されてましたが更新されていたので思わずコメントしちゃいました、、今後の作品も楽しみにしてます！失礼します！ (2022年7月11日 20時) (
レス) @page28 id: baea928cde (このIDを非表示/違反報告)
天羽(プロフ) - ナナさん» コメントありがとうございます！嬉しすぎて飛び跳ねました(笑)主人公ちゃんが起きたこと嬉しいと言っていただけてなんだかうれしかったです！本当に残り数話というところですが、残りもお付き合いいただけたら嬉しいです！よろしくお願いします！ (2022年4月2日 3時) (レス) id: aa4a13b0c9 (このIDを非表示/違反報告)
ナナ(プロフ) - はぁ！主人公ちゃん起きてよかったぁ！嬉しい!!この後どうなるんでしょうか…？全部聞こえてたのかな？ミステリー（？）要素もあり、キュンキュンもありですごく面白いです！更新ありがとうございます!! (2022年4月1日 1時) (レス) @page10 id: 09b5d0a08f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：天羽
| 作成日時：2022年3月23日 2時
