緑谷 side.「特殊な存在」 ページ34
「試験はこれで終わりだ、軽い怪我は自分でなんとかするように。それじゃお疲れさん」
うたいくんの試験を見せられた後で、僕らは誰一人として彼に対するまともな判断が出来なかったと思う。
抜群の戦闘センス、個性の扱い、致命傷になる頭と左胸に故意的に貼られたように見えたステッカー、壊れたガスマスクの下の表情、そしてあの発言——
どれをとっても疑問点しか残らない。敵から逃げる生活の中で身につけたと言い切ればそうなんだろうけれど、何かもっと違うものを感じる。
僕らは困惑して立ち尽くしたままだった。
「どうした？とっとと着替えて帰れよ」
「先生、１つお聞きしてもよろしいでしょうか」
飯田くんが先陣を切って声を上げる。先生がめんどくさそうに要点をまとめて手短に、と告げる。
「うたいくんは……何者なんですか」
「事情が特殊なだけのただの編入生だよ」
「それは分かってます。しかし、聞きたいのはそれではありません。さっきの戦いで彼は明らかに僕たちとは違いました。何か知っているのならば是非お聞きしたいんです」
相澤先生は眉に皺を寄せて、何か考えるように頭をかいた。そしてしばらくした後渋々と言わんばかりに先生は答える。
「概ね言いたいことはわかるが、言えるのは"あれは元から"だ。俺も詳しくは知らんがこれ以上は本人に聞け……答えるかは別だがな」
先生はそう言って職員室へと戻った。
答えるかは別、つまりうたいくんはああなってしまうことを自覚していないか隠したいと思っているのかもしれない。
それぞれがうたいくんという特殊な存在について考え込んだ。
＊
「あれ、轟くんどこに行くの？」
「どこって、融凍の迎えに」
ひとり欠けた教室でうたいくんについて議論が飛び交う中、1人教室を出て行こうとしていたその一言で教室の空気が異様に変わった。
一緒に住んでるお姉さん、ヒーローなんだっけ。忙しいから轟くんが迎えに行くことになったのかな。
僕は「そっか、お大事にって伝えておいて」と、当たり障りない言葉しかかけられなかった。
轟くんはいつもと変わらず短く返事をして教室を出て行く。
うたいくん、君は一体——
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