【aph】正義の定義【アルフレッド・Ｆ・ジョーンズ】

HERO 38 ページ38

「にがぁっ…あぅっ…」

口の中に広まる苦味と酸味は、私にはまた早すぎた。
急いで口を覆い隠して、足をバタつかせる、

「そんなに苦いかい？」
「ぅ…苦く、無いです」

精一杯の強がりだった。
こんなお子ちゃまっぽい人に『子供だなぁ』と思われたくない。

苦味と酸味を堪えながら、平穏を装いスマホを弄る。

「本当は苦かったりして」
「にがくっ…ない」

悶絶する私を、ジョーンズさんは見兼ねた様で。

「ほら、いちごみるく」
「飲みません」

そろそろ死んでしまう。
苦味は舌だけで無く、身体中を毒していた。

「もう、キスしちゃうぞ？」
「結構です」

こんな時に冗談を言わないでくれ、死ぬ。
何故あのとき安易にコーヒーを飲もうとしたのか__あのときの自分を殴りたい。

ほら、く口開けて」
「ん、むー！」

口を再び覆い隠す。
すると彼は溜め息を吐き、向かい合っていた席から立ち上がった。
そして私の隣に座ると、腕を優しく掴み退かした。

「っ…ほ、ほら！あーん！」
「う…」

正直に口を開く。
彼は視線を外しながら私の口にストローを含ませた。

ちゅー、と吸うと甘い香りが私の口の中を侵した。

「んー、ぷはっ…」

いつの間にか、コーヒーの苦味は甘さの中に溶けて消えていた。

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