【銀魂】君と共に生きる春 6【坂田銀時】

答え ページ7

「世界には音や色が溢れていて、町には人が生きていて、海はこんなにも綺麗で。私はこんなに素敵な世界のことを、何も知らなかった。知ろうともしていなかった」


知ろうともしていなかった。その言葉になんとなく、俺は違和感を覚えた。Aは外の世界…つまり病室や狭い部屋の外の世界に、俺のような人間には分からないほどの憧れや羨望を抱いているのだとずっと思っていた。だから少しでもそれを知りたくて本を読んだり、窓から外を眺めたりしているのだと、そう思っていた。それらは本当に彼女が外の世界に触れている訳ではない。疑似体験をしているだけだったり、ただ思いを馳せていただけだったり。それだけだ。けれどそれは、世界を知りたいから。少しでもそこに近いところに居たいからなのだと、そう感じていた。本当のところは分からない。それは彼女にしか分からないことだ。ただ俺の感覚的に、その言葉に小さな違和感があった。

その言葉が、酷く後ろ向きというか、影を感じたというか。

けれど、その違和感をどうこうするよりも前に、Aは続きを口にする。


「でも、知れて良かったって、今はすごく思います。知らないままだったら、それはそれで悲しかったかもしれません」


彼女の影が長く伸びている。俺の影もその隣で、長く伸びている。


「銀さんと出会ってから、私はたくさん、知らなかったことを知りました」

「例えば、どんなことを？」


何も教えたつもりもなくて、俺は尋ねてみる。特に悩む素振りも見せずに、Aはすぐに応える。


「この世界のこともそうだし、例えば…楽しい時間は本当にあっという間なんだってこととか」


よく本とかに書いてありますよね、そういう台詞、と、彼女は言う。それからなんだか寂しげに、けれど微笑みを浮かべたまま、視線を伏せた。


「銀さんが病室に来てくれるようになってから、それが本当にあることなんだって知りました。今日もそう。銀さんが居てくれると、時間なんてあっという間に過ぎていってしまって、実は今、ちょっとだけ寂しかったりします」


恥ずかしそうに、はにかむように、そう口にする。その言葉に、その表情に、心臓が音を鳴らす。俺の拳一個分の小さなそれが、何か重要なことを俺に伝えようとしている。

重たく苦く、甘い、そんな感情が顔を出そうとしている。


「でも……うん」


そして彼女が、俺に止めを刺す。


「…銀さんに会えて、良かったです、私」


そんなことを言われてしまったから、俺は漸く不可思議なこの気持ちについて。この現象についての答えを見つけてしまったのだ。

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