得るべきではなかったもの ページ38
『……もうひとつだけ、言いたいことがあるんだ』
『……俺、俺さ』
彼は私が発作を起こして倒れたことで酷く責任を感じていて、自分のことをとてもとても責めていて。そんな風に思ってほしくなかった私は決して銀さんのせいなんかではないのだということを伝えて。その後に、彼はそう言葉を紡ごうとしていた。何処か思い詰めたように、もう間違いたくないと必死に手を伸ばしているように。それはまるで、私を護ろうとしてくれているように、言葉を告げようとしていた。その表情を。その目を見ているだけで、胸が詰まった。身体が熱を帯びた。そんな感覚が、確かにした。そしてそれと同時に、恐ろしいほどの焦りや恐怖が、甘やかに暖かくなっていた胸のうちを一瞬で支配していったのだ。
私はこの世界のことを少しだって知らない。彼のことだって、きっと少しも知らなかったのだろう。けれど、彼が言おうとしていたのだろう言葉は、察することが出来た。私も、そこまで鈍くはなかったということだ。
その言葉を、聞きたいと思う自分が居たことを知っている。その言葉が欲しかったと思っている自分が居たことを知っている。けれど、私はその言葉をすべて聞くよりも前に、彼の声を遮った。遮って、告げた。私は死ぬのだということを。
来年の春まで持つか持たないか。もう冬も終わりを迎えようとしている。桜の木だって、もしかしたら枝先がそろそろ膨らんできている頃かもしれない。その花が咲く頃には、私はもうこの世には居ないかもしれないけれど。
正直なところ、私は今までこの身体が持っていることに驚いているくらいなのだ。銀さんと出会うよりも前。私の身体はいっそのこともう死なせてくれと思ってしまうくらいには蝕まれていた。
発作はほぼ毎日で、身体は一日中怠くて、食欲もなくて。私はきっとこのまま、春を迎えることもなく、呆気なく死んでいくのだろう。明日にでも死ぬことだって有り得ない話じゃない。それでもいいとすら思っていた。
私はずっと、もうずっと昔から、生きることを諦めていた。
それなのに、彼が現れた。彼が現れて、病室に来てくれるようになってからは、諦めに満ちて、失望すら忘れていた私に、彼は色んなものを見せてきた。それはいつしか手離した、自分の意思で手離したものを思い出させるには十分すぎる日々だった。
この世界に幾つも散りばめられた輝き。誰かと一緒に同じ時間を過ごすことの喜びや暖かさ。それがずっと続けばいいと思う願い。そして。
「…こんなの、知りたくなかった」
得るべきではなかったものまで、彼は私に与えていった。
197人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ピピコ(プロフ) - 獅子の子さん» しーちゃん!いつもありがとうぅぅぅ忙しい中来てくれてありがとうねぇぇえ返事遅くてごめんんん!!シリアスシーンは私もHPをすり減らしながら書いてるからね(笑)ちょっと更新お休みするけど戻ってきたらまた頑張るので、よろしくお願いします!!! (2019年8月6日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - ピー姉さん!続編おめでとうございます!リアルが忙しくてなかなかこっちに顔を出せなかったんだけど、久しぶりに来てみたら続編まで出てて...!嬉しいの極みです(≧∀≦) ピー姉が書くシリアスシーンの緊迫感が好きだぁ...無理せずに更新ファイトじゃ! (2019年7月14日 10時) (レス) id: af0bbdf801 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 桜さん» 追いつめられたときのキャラを書くときは自分でもダメージを負います(笑)二人の物語が今後どの方向に向かっていくのか、見守っていてくださると嬉しいですれ応援ありがとうございます!(*^^*) (2019年7月8日 0時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - わわわっ……。もうー、これからどうなっていくのかドキドキですっ! 銀さんあんまり自分を責めないでっ。これからの展開がものすごく楽しみですっ! 応援してます! (2019年7月4日 18時) (レス) id: f38863f7c8 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 桜さん» 桜さん!ありがとうございます!!ですね!銀さんと言えば銀色です!夢主ちゃんは何色がいいかな…。私も優しい銀さんがめっちゃ好きですし繊細な夢主ちゃんと不器用ながらも接してくれるのがすごくツボです(笑)そう言って頂けるとやる気が出てきます!頑張ります! (2019年6月5日 0時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2019年6月1日 22時