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理解しているつもりでいた ページ21

Aが目覚めたとき、俺は彼女に何て声をかければいいのだろう。『大丈夫か?』『心配した』『目を覚まして良かった』。そんなありきたりで何処にでもありそうな、テンプレートな台詞しか思い付かなかった。けれどそのどの言葉も、俺は口に出来る気がしなかった。口にすべきではないのではないかとすら思えた。何も気付くことの出来なかった俺に、心配する権利は、果たしてあるのだろうか。随分と都合が良すぎやしないだろうか。俺がもっとちゃんと気を付けて彼女を見ていれば、彼女の異変にすぐに気付いてさえいれば、こんなことにはならなかったのではないか。もしかしたら俺は、こうして彼女の傍に居ることすら許されないのかもしれない。

ピッ、ピッ、という音が静かに病室に響く。とても機械的な音。けれどそれは、Aが生きていることを証明している。Aの心臓が動いていることを教えている。その音と一緒に心電図のモニターに映された緑色の線は一定の時間毎に上下している。俺はモニターを眺めながら、それに少し安堵する。

Aが呼吸をすると、酸素マスクが曇る。今は呼吸もすっかり落ち着いていて、ゆっくりゆっくりと寝息をたてて、腹部が柔らかく動いていた。


ーー彼女が発作を起こしたあの時。

俺が目を向けたときにはもう肌の色は抜け落ちてしまっていて、触れたところの何もかもから冷たさを感じていた。苦しげに繰り返される呼吸に、歪む彼女の顔。虚ろな目。俺はそれらを見て、このまま彼女は死んでしまうのではないかと思った。呼吸が止まって、心臓も止まって。彼女はそのまま失われてしまうのではないかと。

それが、怖くて、恐ろしかった。身体中から血の気が引いて、頭がガンガンと痛むくらいに。何も考えられなくなってしまうほどに。


『人が死ぬ』。それは至極当たり前のことで、誰にでも起こり得ることで。いずれは俺だって死んでいくのだろう。それに、人が死ぬところを、俺は数えきれないくらいに見てきた。仲間の死を見届けたこともあるし、自分自身の手で人を殺したことだって幾度となくある。『死』というものを、俺は人よりずっと理解しているつもりで、慣れているつもりでいた。磨耗していると言った方が正しいのかもしれないけれど。

でも、彼女から体温が失われていったあの時。俺は怖かった。とてつもなく、『死』が恐ろしかった。それが彼女を奪っていくかもしれないことが、ただただ怖くて恐ろしかった。

認識しきれていなかった→←責めてくれればいい



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ピピコ(プロフ) - 獅子の子さん» しーちゃん!いつもありがとうぅぅぅ忙しい中来てくれてありがとうねぇぇえ返事遅くてごめんんん!!シリアスシーンは私もHPをすり減らしながら書いてるからね(笑)ちょっと更新お休みするけど戻ってきたらまた頑張るので、よろしくお願いします!!! (2019年8月6日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - ピー姉さん!続編おめでとうございます!リアルが忙しくてなかなかこっちに顔を出せなかったんだけど、久しぶりに来てみたら続編まで出てて...!嬉しいの極みです(≧∀≦) ピー姉が書くシリアスシーンの緊迫感が好きだぁ...無理せずに更新ファイトじゃ! (2019年7月14日 10時) (レス) id: af0bbdf801 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 桜さん» 追いつめられたときのキャラを書くときは自分でもダメージを負います(笑)二人の物語が今後どの方向に向かっていくのか、見守っていてくださると嬉しいですれ応援ありがとうございます!(*^^*) (2019年7月8日 0時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - わわわっ……。もうー、これからどうなっていくのかドキドキですっ! 銀さんあんまり自分を責めないでっ。これからの展開がものすごく楽しみですっ! 応援してます! (2019年7月4日 18時) (レス) id: f38863f7c8 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 桜さん» 桜さん!ありがとうございます!!ですね!銀さんと言えば銀色です!夢主ちゃんは何色がいいかな…。私も優しい銀さんがめっちゃ好きですし繊細な夢主ちゃんと不器用ながらも接してくれるのがすごくツボです(笑)そう言って頂けるとやる気が出てきます!頑張ります! (2019年6月5日 0時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/  
作成日時:2019年6月1日 22時

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