【銀魂】君と共に生きる春 6【坂田銀時】

言うべきなのは ページ18

「こちらこそだよ。Aにこんなにいいお友達が出来て、僕は本当に嬉しい」


あの子が君達に出会うことが出来て、本当に良かった、と。Aの父親は誠実な表情をしたまま、静かに微笑んだ。道端の、誰にも気付かれず人知れず踏まれていてもおかしくないような目立たないところにひっそりと咲いている花を見つけて、それを慈しむように。悲しそうでもあり、心から嬉しそうでもあるような。疲れ果てているけれど、微かな希望を目にしたかのような。そんな複雑な表情だった。その表情を見て、俺は何とも言えない、いつか感じたことのあるようなやるせなさを覚えた。

Aは母親似だと思う。目だとか口元だとかがそっくりだし、笑った顔もよく似ている。以前病室で会ったときからそう思っていたのだけれど、何処か切なそうな、影がありつつもその中には明るいものも含まれているような。そういう彼の表情が、いつかの彼女の表情と重なった。その時に感じた、彼女のその表情の理由に踏み込めないやるせなさ。それが思い出したかのように俺の心の表面をつついてきた。

けれど俺には何も出来なくて。何の言葉もかけられなくて、黙り込んでしまう。何を言ったところで、きっとAの両親は。この二人は少しも救われることはないだろうから。俺なんかに、何を言えるというのだろう。


でも、何かを言わなければいけないような気がして、俺は声を発するために息を吸い込んだ。そして、ひとつの俺の本心を言葉にした。


「俺も、そう思います」


こんなときにこんなことを思うのもどうかと思う。場違いな気持ちで、場違いな言葉だと自分でも自覚している。でも。

俺はAに出会えて良かった。彼女と出会って、柔らかな時間を共にして。俺はあの時間が、とてつもなく、幸せだった。今になってそれを再確認した。これからもあの時間を過ごせたなら。彼女の優しい微笑みを見つめられたなら、コロコロとした笑い声を聴いていられたなら。どうしようもなく苦しげに痛む胸のうちで、そう願う。

俺のその言葉に、Aの父親はもう一度小さく「ありがとう」と呟き、母親は泣きそうな顔をしながら微笑んだ。


けれどきっと、『ありがとう』を言うべきなのは俺の方なのだろう。


そう思いながら、俺は未だ固く閉ざされたままの治療室の扉を見据える。

その扉が開いたとき。彼女がどうか無事でありますように。


まだ言えていないことが。言わなければならないことがあるのだ。

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