【銀魂】君と共に生きる春 6【坂田銀時】

感謝こそすれど ページ16

その二人の姿が目に入った瞬間、俺は弾かれたように立ち上がってAの両親の方を向いた。Aの母親とは以前に一度会って話したことがあったので向こうも俺が居ることに気付いて、会釈しながら足を早めた。俺もそれに返すように頭を少し下げながら数歩、二人の方に歩み寄った。その表情は前に会ったときよりもやつれていて、酷く強ばっているのが分かった。Aにそっくりの穏やかで優しげな笑みは、今はそこにはなかった。無理もない。自分達の娘が発作を起こして倒れたと聞いて焦らない親なんか居ないだろう。小走りでやって来た二人は一様に「Aは…！？」と彼女の現状を把握するべく俺にそう言った。

俺も俺で治療室に入っていく前の彼女のことしか分からないので何とも言えないが、分かる範囲のことを伝えようと頭で言葉を繋ぎ会わせていく。


「俺の原チャリでご自宅までA……さんを送っていこうとしていたんですけど、その途中で急に苦しみ出して、原チャリを止めたらそのまま倒れて」

「け、怪我は…！？」


父親が不安げに眉を寄せて俺の声に被せるように言って、俺はヘルメットをしていたから怪我はなかったということを伝えた。それから続ける。


「たまたま知り合いの警察が乗ったパトカーが通り掛かって、そのパトカーでここまで……パトカーに乗った時に意識を失ってました」

「……そうですか…」


俺が言い終えると、Aの母親は小さく溜め息をついて、まるで崩れ落ちるように長椅子に腰を下ろした。その隣に父親が座り、彼女の肩に手を回して擦っている。そういえば父親はスーツを身に纏っている。仕事終わりだったのだろうか。


「……すみません、俺が、連れ回したりしたから…」

「いえ……坂田さんのせいじゃないです。どうか、謝らないでください」


と。俺がそう言うと、俯かせていた顔を上げて彼女はそう言って首を横に振った。その言動に俺は少しだけ驚いた。責められてもおかしくないと、「お前が連れ回したせいで娘が倒れたんだ」と糾弾されても文句なんか言えないと、思っていたから。

それどころか、彼女も、そしてその隣に居る父親も、俺に慰めるような優しい目を向けてくる。


「あの子、今日のことをずっと楽しみにしていて……倒れないようにしなきゃって運動までして……前の日なんて、遠足に行く子供みたいにそわそわしてて」


私達は坂田さんに感謝こそすれど、非難することなんて何もないんですから、と。彼女は不安の色はそのままに、けれど微かに笑った。

素敵なことがあったんだと→←途方もなく長い時間

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