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β. 分かっても違うと願って、 ページ26

「ただいま」

「おかえり」

数十分前に考えていたことなど忘れてしまったかのような顔で、エーミールから卵を受け取った。

全て割れずに収まっているのを確認して冷蔵庫に入れる。

靴を脱ぐエーミールの頭に、紅葉が一枚、髪飾りのように留まっていた。

気づいていないようだし、とってやろうと手を伸ばす。

「…っ!」

素早く手を引いた。

「A?なんかあったんか?」

手を押さえ青ざめる俺に不信感を感じたようで、エーミールが顔を覗き込んでくる。

「いや、なんでもない…」

「……?」

不思議そうにしながら俺をすり抜け、部屋の方へ歩くエーミール。

その後ろから再び手を伸ばし、今度こそ紅葉をとった。

何もなかったことにホッとして、息を吐く。

さっきは本当にぞうっとした。

心臓はないはずないのに、どくどくといっている気がする。

さらりと触れた髪は久しぶりの感覚だったが、いいものではない。

むしろ、永遠になければよかったものだ。

幽霊である俺が触れることができるという事は、それだけ死に近づいているという事だ。

一週間…いや、もって五日か。

触れることができたのは一瞬。

俺自身の存在が薄くなっているため、何度も触れる人間はほぼ死んでいるような状態だ。

一度は触れてしまったが…そうでなかったことにひとまず安心する。

今日明日に亡くなる事はないと思うが…

ちらりと自分の手を見る。

すっかり薄れて、床も、壁も、手を通してはっきりと見える。

こちらが、持つかはわからない。

「A?紅葉もってどうしたん?」

「いや…エーミールの頭についてたぞ」

「ああ、いつの間にのってたんやなぁ」

ふんわりと笑い自分の頭を撫でるエーミールに、下手な笑いを返す。


エーミールと出会う前は、もっと上手く作れたんだけどな。

大事なものを作ると、どうもダメだ。

β. 彼と触れた日は、→←β. 同じなら死のうと言えたのに、



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nomisan - いやー、ありがとうございます!このラストのおかげで私の検索履歴はだいぶロマンチックなことになりました…。これからももうしばらくお願いいたします! (2019年10月13日 21時) (レス) id: ec834518e3 (このIDを非表示/違反報告)
背教者Ζ(プロフ) - 本編完結おめでとうございます! どっちのエンドも良かったですが、自分の好みは二番目のラストですね。婉曲な愛の言葉が刺さりました… α、βも説明一行だけでご飯三杯はいけますね( ˙-˙ ) 番外編も楽しみにしてます! 無理のない程度で頑張ってください(矛盾) (2019年10月13日 0時) (レス) id: 03d3cf7e0f (このIDを非表示/違反報告)
nomisan - ありがとうございます…!個人的になかなか考えたシーンなのでそう言っていただけると嬉しいです…! (2019年9月14日 23時) (レス) id: ec834518e3 (このIDを非表示/違反報告)
背教者Ζ(プロフ) - 日記から思い出すシーンの表現力高すぎませんか……すごく引き込まれるというか、心境の揺らぎの鮮やかさというか。応援してます。 (2019年9月14日 10時) (レス) id: 03d3cf7e0f (このIDを非表示/違反報告)
nomisan - ありがとうございます。コメントでどれだけ救われるか…。しっかりと完結まで頑張りたいと思います。 (2019年9月9日 14時) (レス) id: ec834518e3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:nomisan | 作成日時:2019年8月26日 22時

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