β. ゆったりとしていても、 ページ24
「おはようエーミール」
「おはようA」
「朝は食べられそうか?無理ならお茶だけでもいれるが」
「ああ…じゃあそれだけがええなぁ」
私はゆっくりと体を起こし、椅子に腰を下ろした。
関節が所々痛み、体の衰えを感じさせる。
自身はあまり使っていない台所では、Aが器用にポットを浮かせていた。
その様子をぼんやりと見ながら、かつての仲間を思い出す。
60になる前くらいに、優秀な人材を見つけ、譲り渡した我々国。
軍からは退いたはずのグルッペンは、未だに指示を出すこともあるようで、何だかんだ優秀なコネシマと共に現役といっても過言ではない。
右腕であったトントンは若い頃の徹夜などのツケが溜まっているのか今は寝たきりだ。
ゾムやロボロも元気ではあるがそれほどご飯を食べなくなった。
鬱は現在病院に入院していて『美人のおねーちゃんいっぱい』というメールが履歴に残っている。
この世界では90まで生きればだいぶな長生きになる。
年齢的にもあまり長くはないだろう。
シャオロンも口が達者なのは変わりないが、勢いは失われてきている。
ショッピはどうやら情報面でのコネシマのサポートをしているらしい。
先輩がまだ現役なのに、俺が引退してどうするんすか。と言っていたが、本心はどうなのだろう。
そして他のメンバーだが。
正直様子はよくわかっていない。
ひとらんは何年かこちらに残って、東国に戻ってから私とはやりとりをしていない。
オスマンとチーノは世界何周かの旅に行って、しばらく戻ってきている様子はない。
しんぺい神はどこか教会の方で病人の手当てなどをしていると一度聞いたが、戦場にいるだの、まだ軍に残っているだの、男を漁りに行っているだのなぜか情報が色々とあるのでわからない。
そして、私は。
国の中心より少し外れた家で、まだ幽霊であるAと暮らしている。
体に戻ろうとなったことはあるが、Aの幽体は体をスカスカと抜けるばかりで叶わなかったのだ。
Aの見た目は、変わらず20代のまま。
しかし昔より体の色が薄れてしまった。
このままゆっくり消えていって、私をいつか一人きりにするかもしれないと思うと本当に恐ろしい。
「お茶は咽せないようゆっくり飲んでくれよ」
ふんわりと香るお茶は、少しぬるくなっていた。
熱いままでは火傷するかもしれない、というAの気遣いだ。
それを啜って、目を閉じる。
私も、もうすぐ死ぬだろう。
Aと一緒に、死ねたらいいのに
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nomisan - いやー、ありがとうございます!このラストのおかげで私の検索履歴はだいぶロマンチックなことになりました…。これからももうしばらくお願いいたします! (2019年10月13日 21時) (レス) id: ec834518e3 (このIDを非表示/違反報告)
背教者Ζ(プロフ) - 本編完結おめでとうございます! どっちのエンドも良かったですが、自分の好みは二番目のラストですね。婉曲な愛の言葉が刺さりました… α、βも説明一行だけでご飯三杯はいけますね( ˙-˙ ) 番外編も楽しみにしてます! 無理のない程度で頑張ってください(矛盾) (2019年10月13日 0時) (レス) id: 03d3cf7e0f (このIDを非表示/違反報告)
nomisan - ありがとうございます…!個人的になかなか考えたシーンなのでそう言っていただけると嬉しいです…! (2019年9月14日 23時) (レス) id: ec834518e3 (このIDを非表示/違反報告)
背教者Ζ(プロフ) - 日記から思い出すシーンの表現力高すぎませんか……すごく引き込まれるというか、心境の揺らぎの鮮やかさというか。応援してます。 (2019年9月14日 10時) (レス) id: 03d3cf7e0f (このIDを非表示/違反報告)
nomisan - ありがとうございます。コメントでどれだけ救われるか…。しっかりと完結まで頑張りたいと思います。 (2019年9月9日 14時) (レス) id: ec834518e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:nomisan | 作成日時:2019年8月26日 22時