α. 近いものを感じて、 ページ21
どうやら、銃弾は太い血管を掠ってしまったようだった。
なんとか一命は取り止めたが、貧血のせいか、エーミールは一日経っても目を覚まさない。
グルッペンは仕事を投げ出し、医務室前をうろうろとしている。
まだ検査があるため中には入れない。
そんなグルッペンのことは、誰も止めようとしなかった。
医務室内の一つのベッドでは、血液のパックが横に置かれ、その反対には心電図などを映し出すモニターがある。
もちろんベッド自体にはエーミールが寝ていた。
エーミール以外に医務室内にいるのは、医療班とそのリーダーのしんぺい神のみ。
観光客もいない。
死んだように眠り続けるエーミール。
その場にいる誰も、エーミールの夢は見ることはできなかった。
ーーー
「撃たれたな。エーミール」
私が目を開けると、目の前にはやけに姿がはっきりとしたAがいた。
いつもは半透明で、ゆらゆらとしているのに…
「ようこそ、俺たちの世界へ。まだ来るのは先だと思っていたが…」
足場はまるでアスレチックのようで、丸い台の下に一本棒が伸びている。
キノコに近い形状だった。
それが等間隔に並んでいて、暗い闇へと繋がっている。
Aは私の一つ前のその丸い台に腰掛け、足を組んでいた。
「ここはどこです?軍内ではないですよね」
「そうだな。一番いい例えは…三途の川と言うといいか」
三途の川。ひとらんさんの国にある宗教にそんな考え方があった気がする。
現世とあの世の分かれ目だったか。
「今俺たちは三途の川のちょうど真ん中にいる。後ろを見てみろ」
言われるままに頭を動かすと、そこにも暗い闇が広がっていた。
しかし確かにアスレチックは繋がっている。
「今、俺たちの魂は半分あっちに半分こっちに行っている。
本来なら、死人には一人一つ、この道が用意されていて…」
指で示しながら、Aはこの空間の説明をしていく。
「…ん?待ってください。なら、なぜ私たちは今こうして話しているんです?」
一人一つ当てられているなら、私たちは会うことができないはずだ。
「…俺が、エーミールの魂に入り込んだからな」
「そんなことできるんです!?」
それならば、このアスレチックは一人一つというより魂一人分につき、という事だろうか。
「まあ、魂の量と相性が良かったんだろう。…そうだ、こんな話をしに来たんじゃないんだ」
パシと膝を打ち、邪悪な顔で身を乗り出す。
「…どうだエーミール、俺と生き返らないか?」
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nomisan - いやー、ありがとうございます!このラストのおかげで私の検索履歴はだいぶロマンチックなことになりました…。これからももうしばらくお願いいたします! (2019年10月13日 21時) (レス) id: ec834518e3 (このIDを非表示/違反報告)
背教者Ζ(プロフ) - 本編完結おめでとうございます! どっちのエンドも良かったですが、自分の好みは二番目のラストですね。婉曲な愛の言葉が刺さりました… α、βも説明一行だけでご飯三杯はいけますね( ˙-˙ ) 番外編も楽しみにしてます! 無理のない程度で頑張ってください(矛盾) (2019年10月13日 0時) (レス) id: 03d3cf7e0f (このIDを非表示/違反報告)
nomisan - ありがとうございます…!個人的になかなか考えたシーンなのでそう言っていただけると嬉しいです…! (2019年9月14日 23時) (レス) id: ec834518e3 (このIDを非表示/違反報告)
背教者Ζ(プロフ) - 日記から思い出すシーンの表現力高すぎませんか……すごく引き込まれるというか、心境の揺らぎの鮮やかさというか。応援してます。 (2019年9月14日 10時) (レス) id: 03d3cf7e0f (このIDを非表示/違反報告)
nomisan - ありがとうございます。コメントでどれだけ救われるか…。しっかりと完結まで頑張りたいと思います。 (2019年9月9日 14時) (レス) id: ec834518e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:nomisan | 作成日時:2019年8月26日 22時