α. 不自然なもう一人、 ページ20
※撃たれる描写あり
「…意外と分からないものだな」
「Aが上手いからじゃないですかね?どこでそんな技術手に入れたんです」
「初期はゾムもいなかったからな。潜入は俺がやっていたんだ。
といっても隠密はあまり得意ではなかったし、変装してな」
「…グルッペンにそっくりですし、バレそうですけどね」
「グルッペンみたいな邪悪なオーラは放っていなかったんだ」
「たしかに、グルッペンのようなオーラの人が二人もいたら誰かは圧に潰れそうですもんね」
「支配者は今は一人でいい」
部屋に響く、二人の会話。
そして書類をめくる時の紙の音。
けれどそこにはどこからどう見てもエーミール一人しかいなかった。
通信のできる端末をいじっている様子もなし、別の部屋にいそうでもなし。
この状態を誰かに見られれば、多くの人は二重人格を疑うだろう。
しかし、彼らは決して、二重人格ではない。
ー
事の発端は、グルッペンがエーミールに戦争に出ないか、と言ってきた事だった。
前々からその話は出ていたし、エーミールはすぐに承諾をした。
近頃扱いに慣れてきた爆弾を、戦争で使ってみたいと思っていたからだ。
その戦争は勝ち戦で、加えてエーミールはゾムとツーマンセルを組まされた。
過保護なグルッペンらしく、初の前線デビューは安全が保障されたもの…となっていたはずなのだが。
戦争後半。
敵もあらかた片付け終わり、ゾムは更なる血を求めてエーミールから離れていく。
安全がほぼ確保された上でのお留守番だった。
エーミールも戦えないわけではないし、死にはしないと思ったのだろう。
久々の運動で疲れたエーミールも、ゾム同様にそう思い、油断していた。
パァン、と乾いた音。
戦争用に作ってもらった服は生地が丈夫とはいえ、中距離から放たれた銃弾を防ぎきるまでにはいかなかった。
それは太ももをえぐり、エーミールは前へと倒れる。
撃った敵は死にかけだったらしい。
二発目が続けて撃たれることはなかった。
だが、当たりどころが悪かったのか血がだくだくと出てくる。
急いでハンカチで傷口を押さえ、足の付け根を縛るが、意識はだんだん遠のいていく。
あるけるか?むり。ろぼろさんにれんらく。しないと。
足が、焼けるように熱い。
銃弾が残っているのか。
少し冷えた手で通信機のスイッチを押した。
「D地点エーミール…撃たれた…」
でかい声が聞こえた気がするが、意識が離れかけているエーミールには届かなかった。
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nomisan - いやー、ありがとうございます!このラストのおかげで私の検索履歴はだいぶロマンチックなことになりました…。これからももうしばらくお願いいたします! (2019年10月13日 21時) (レス) id: ec834518e3 (このIDを非表示/違反報告)
背教者Ζ(プロフ) - 本編完結おめでとうございます! どっちのエンドも良かったですが、自分の好みは二番目のラストですね。婉曲な愛の言葉が刺さりました… α、βも説明一行だけでご飯三杯はいけますね( ˙-˙ ) 番外編も楽しみにしてます! 無理のない程度で頑張ってください(矛盾) (2019年10月13日 0時) (レス) id: 03d3cf7e0f (このIDを非表示/違反報告)
nomisan - ありがとうございます…!個人的になかなか考えたシーンなのでそう言っていただけると嬉しいです…! (2019年9月14日 23時) (レス) id: ec834518e3 (このIDを非表示/違反報告)
背教者Ζ(プロフ) - 日記から思い出すシーンの表現力高すぎませんか……すごく引き込まれるというか、心境の揺らぎの鮮やかさというか。応援してます。 (2019年9月14日 10時) (レス) id: 03d3cf7e0f (このIDを非表示/違反報告)
nomisan - ありがとうございます。コメントでどれだけ救われるか…。しっかりと完結まで頑張りたいと思います。 (2019年9月9日 14時) (レス) id: ec834518e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:nomisan | 作成日時:2019年8月26日 22時