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2. 小さな窓から溢れるそれは、 ページ12

「…やっぱりそうやんな?」

そういうとゾムさんとシャオロンさんはボソボソと話し始めた。

そのやり取りはよく聞こえない。

「あの…どうしてそんな事を聞くんです?」

「…実はな、Aが寝言でエミさんの名前を呟いてたんや。だから…」

ガタン

シャオロンさんの言葉を遮るようにして立ち上がる。

いつのまにか静かになっていた食堂にその音はよく響いた。

「Aが…?」

エミさんが敬称をつけないなんて珍しい、と誰かが言った。

多分大先生だ。

でもそれは別に気に留めることではない。

そんなことより、早く、確認を____

「エーミール」

駆け出そうとした私の足をバリトンボイスが止める。

「落ち着け。今は朝食が先だ」

「…はい」

それは一気に頭を冷やして、私はストンと椅子に座る。

グルッペン何か知っとるん!?という声と、早く食えと答える声。

ぼうっとした頭でそれを聞き流した。

もくもくとご飯を食べ、もう一度手を合わせた。

「ごちそうさまでした」

これも、東の国の言葉。

こちらは食材を集めてくれた人々に対する感謝も含めている。

流石に最後は揃えられないので、各々でこの言葉を口にし食器を片付ける。

食堂から出て、医務室へと足を向けた。

少し遠いが、一刻も早く確認したかった。

だんだんと歩きから早足へ、そして駆け足に変わっていく。

「A…!」

医務室ではAがお粥を食べていた。

突然の訪問者に、驚いたようにこちらを見る。

「君は…」

「わ、私の、私の名前を覚えていますか…!」

食い気味にそう聞くと、Aは困惑したように答えた。

「エ、エーミールだろう…?」

あまりに当然のように言うので、途端に涙腺が緩む。

覚えていないと思っていただけになんか嬉しさと感動とその他諸々が溢れてきた。

ボロボロと涙を流す私にAは慌てたように何かを探す。

まだ少し残った腫れに涙がしみた。

「お、覚えているならなんで嘘ついたんですかぁ〜…」

「いや、あれは嘘じゃなくてな…落ち着けエーミール…くそ、タオルがない…」

しゃがみこんだ私の顔を上げさせ、袖を伸ばした入院着で涙を拭う。

「俺はたしかに忘れていたんだ。だが色々と記録しててな…」

未だ視界の滲む私にAは黒いノートを差し出した。

目を擦ろうとすると、Aはその手を制し上から服でそっと押さえる。

「これ…何ですか…」

自分の鼻声が聴こえて少し恥ずかしい。

「俺が幽霊の頃書いた日記だ。まあ読んでくれ」

2. あなたと笑えるのなら、→←2. 不可解なる、



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nomisan - いやー、ありがとうございます!このラストのおかげで私の検索履歴はだいぶロマンチックなことになりました…。これからももうしばらくお願いいたします! (2019年10月13日 21時) (レス) id: ec834518e3 (このIDを非表示/違反報告)
背教者Ζ(プロフ) - 本編完結おめでとうございます! どっちのエンドも良かったですが、自分の好みは二番目のラストですね。婉曲な愛の言葉が刺さりました… α、βも説明一行だけでご飯三杯はいけますね( ˙-˙ ) 番外編も楽しみにしてます! 無理のない程度で頑張ってください(矛盾) (2019年10月13日 0時) (レス) id: 03d3cf7e0f (このIDを非表示/違反報告)
nomisan - ありがとうございます…!個人的になかなか考えたシーンなのでそう言っていただけると嬉しいです…! (2019年9月14日 23時) (レス) id: ec834518e3 (このIDを非表示/違反報告)
背教者Ζ(プロフ) - 日記から思い出すシーンの表現力高すぎませんか……すごく引き込まれるというか、心境の揺らぎの鮮やかさというか。応援してます。 (2019年9月14日 10時) (レス) id: 03d3cf7e0f (このIDを非表示/違反報告)
nomisan - ありがとうございます。コメントでどれだけ救われるか…。しっかりと完結まで頑張りたいと思います。 (2019年9月9日 14時) (レス) id: ec834518e3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:nomisan | 作成日時:2019年8月26日 22時

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