1. 分かっているのは、 ページ1
「それじゃあA!また手合わせしような!」
体調に配慮して、あまり居すぎるのは良くないと、十五分程度騒いだところで皆が出て行く。
一番最初に入ってきたゾムさんは、一番最後に出て行った。
ぶんぶんと振られるゾムさんの手に、Aも小さく振り返す。
「ああ。体が戻ったらな」
嬉しそうに天井へ戻って行くゾムさんを見届け、医務室を覗き込んだ。
「あの…大丈夫ですか?これから話をしても」
隣に立っていたしんぺいさんにそう聞く。
「うーん…あと十分くらいなら。それ以上はAの体調に合わせてね」
「分かりました」
じゃあ僕は薬の調合とかあるから、と医務室の奥へ消えて行くしんぺいさん。
きっとこちらに配慮してくれたのだろう。
本当にありがたい。
「A、」
はく、と口を動かす。
手がじっとりと汗をかいて気持ち悪い。
声を出せ、覚悟はしただろうエーミール !
「…私のことを、覚えていますか」
Aは少し、目を細めた。
しばらくこちらを見つめたあと、口を開いた。
「すまない、少し手間かもしれないが、夕食後にまた来てくれないか」
申し訳なさそうにAは笑った。
これは、どっちだ?
覚えていなければ “誰だ?”と言うだろうし、覚えているのか…?
困惑する私に、Aはさらに続ける。
「さっき、思いのほか体力を消耗してな…夕食後に、答えを出そう」
微笑むAは、これ以上何も答えてくれなさそうだった。
「…分かりました、また来ることにします。…しっかり寝てくださいね」
「もちろん」
そう言うなり、Aは起こしていた体を布団に倒し、すぐに寝息を立てた。
よっぽど疲れていたのだろう。
青白く、無防備で、グルッペンによく似た寝顔。
「しんぺいさん」
本当に薬の調合をしているらしい、しんぺいさんに声をかける。
「うん?」
「Aは寝てしまったので、仕事に戻らせていただきますね。」
「あ、そう。分かったよ、ありがとうね」
「…それと、夕食後にまた来たいのですが…」
「ん、分かった。明かりとかはつけておくよ。ちょうど僕、用事があってね」
「ありがとうございます」
頭を下げて、出口へと向かう。
「はーい…あ、そうだ。ちゃんと睡眠をとらないと、添い寝しに行くから」
パチン、と綺麗なウインクとともに、恐ろしい言葉が聞こえた。
「ワ、ワカッテマスヨ」
私はほぼ逃げるように、医務室を出て行った。
ケツを向けろと言われなかっただけマシなのだろうか…。
66人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「男主」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
nomisan - いやー、ありがとうございます!このラストのおかげで私の検索履歴はだいぶロマンチックなことになりました…。これからももうしばらくお願いいたします! (2019年10月13日 21時) (レス) id: ec834518e3 (このIDを非表示/違反報告)
背教者Ζ(プロフ) - 本編完結おめでとうございます! どっちのエンドも良かったですが、自分の好みは二番目のラストですね。婉曲な愛の言葉が刺さりました… α、βも説明一行だけでご飯三杯はいけますね( ˙-˙ ) 番外編も楽しみにしてます! 無理のない程度で頑張ってください(矛盾) (2019年10月13日 0時) (レス) id: 03d3cf7e0f (このIDを非表示/違反報告)
nomisan - ありがとうございます…!個人的になかなか考えたシーンなのでそう言っていただけると嬉しいです…! (2019年9月14日 23時) (レス) id: ec834518e3 (このIDを非表示/違反報告)
背教者Ζ(プロフ) - 日記から思い出すシーンの表現力高すぎませんか……すごく引き込まれるというか、心境の揺らぎの鮮やかさというか。応援してます。 (2019年9月14日 10時) (レス) id: 03d3cf7e0f (このIDを非表示/違反報告)
nomisan - ありがとうございます。コメントでどれだけ救われるか…。しっかりと完結まで頑張りたいと思います。 (2019年9月9日 14時) (レス) id: ec834518e3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:nomisan | 作成日時:2019年8月26日 22時