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状況を理解した後も、僕は案外冷静だった。いや、思えば、僕は既にキャパオーバーを起こしていたんだと思う。ああそうか、僕はあんなふうになるんだ。そんなことを考えながら、僕は怪物が僕に襲いかかって来るのをぼんやりと見ていた。痛みに備えて、ぎゅっと目を瞑る。ふと衝撃が走って誰かに突き飛ばされた。少し後ろによろけて、尻餅をつく。恐る恐る目を開けると、兄の背中が見えた。
「兄……ちゃん…… 」
思わず声が出た。兄の足元に、ぼたぼたと赤い液体が落ちては丸い模様を作っていく。
「レオ……」
兄の声に、僕は再び顔を上げた。兄と視線がかちあう。黒い学ランの肩の部分を赤く染めて、怪物をなんとか収め込もうと必死になりながら、僕の方を見て兄は笑った。
「逃げろ。」
兄は、痛みに耐えるために歪んだ顔に、いたずらっぽい笑みを浮かべて、苦しそうで、それでいて力強い声で言った。僕は泣き出しそうになるのを必死に堪えて首を振った。
「はやく！」
そんなことしたら、兄は絶対に死んでしまうではないか。そう訴えようと、口を開いたが、それは兄の聞いたことのない大声に静止された。見たことのない兄に、思わず絶句する。
「……頼むよ」
それでも動かない僕に、兄は今度は諭すように言った。
「お前だけでも、生き残ってくれ」
今にも泣き出しそうな、そんな表情の兄を否定することなんてできなかった。僕は兄と怪物に背を向けて、できる限りの速さで学校の廊下を走った。涙で滲む視界に、必死に願っていた。
神でも天使でもなんでもいい、頼むから僕たちを、兄を助けてくれ！
元来神なんて信じていないが、この時ばかりは頭の中に強くそんなことを願わずにはいられなかった。
しかし、僕の願いが髪に通じることはなかった。
唐突に背中に衝撃が走り、地面に体が地面に叩きつけられる。それと同時に、体にずっしりと重いものがのしかかった。振り向くより先に、右腕のふとももに激しい痛みが走る。僕の体に乗ってきたのは、先ほどの怪物だった。そのことに気がついた時、僕は、自分が今から死ぬことと、兄が既に死んだことを悟った。その時、僕の頭を支配していたのは、不思議と恐怖ではなかった。それに勝る、大きな怒り。なぜ、僕は、兄は、死ななければならないのか。僕たちが、一体何をしたというのか。こんな所業を甘んじて受け入れられるわけがない。ふざけるな、こんなところで死んでたまるか。ふざけるな、
「ふざけんなぁッ……」
僕の意識は、そこで途絶えた。
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七輪(プロフ) - コメント失礼します 「光か、闇か、抵抗か。」に参加しています七輪です 美空さんの登場するお話を「花街蒼の手帳」にて投稿致しましたのでご報告にまいりました！ (2022年9月6日 18時) (
レス) id: 508fa4b0c0 (このIDを非表示/違反報告)
元素(プロフ) - CS提出ありがとうございます！生意気なショタだ！かわいい！！不備等ございませんのでこのまま受理させていただきます！ (2022年5月15日 13時) (レス) id: 656d2fa00c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：朔間文秋 | 作成日時：2022年5月8日 14時
