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憧れたテレビ。アイドル。しかし、彼女の性格がそれらに向いていないことは火を見るよりも明らかだ。彼女の利点といえば、親からの七光と、親から受け継いだ顔だけ。それでも、いや、それゆえに、周りの人たちは彼女を丁重に扱ってくれた。彼女とのコネはそのまま親へのコネに繋がるんだから。
しかし、彼女がそのことに気づくのも時間の問題であった。周りからの視線が、羨望でないこと。向けられる嫉妬が、己の才能に対してではないこと。きっかけはなんだっただろうか。きっと、これといったきっかけなどなかったのだろう。たまたま、裏での悪口を小耳に挟んだだけかもしれない。たまたま、彼女を悪く言う週刊誌を見てしまっただけだったかもしれない。ただ、彼女を面白く思っていない人たちがいる事実を、それが大多数を占めるという真実を、彼女が知ってしまったのだ。もちろん彼女はショックを受け、芸能界を引退した。ちょうど小学校を卒業する時期である。
一体何が悪かったのだろうか。彼女は考えた。自分に足りなかったもの。社交性、個性、歌唱力、演技力、ダンス力、知能、運動能力……上げ出したらキリがない。
そうか、道理で、誰からも愛されないわけだ。
いつも家にいない両親からも、構ってくれないお手伝いさんからも、後ろ盾しか見ていない世間の人々からも、愛なんて感じたことなかった。
愛されるために、猫をかぶろう。明るくて、社交的で、誰にも流されない芯を持っていて、いつも堂々としていて、ちょっと自己肯定感が強くて。個性は、あった方がいいよね。そうだ、僕っ子なんてどうだろう。
たまたま見つけたオーディションの案内。今度こそ、みんなから愛してもらえるかな。母さんと父さんのことは、隠して行こう。今度こそ、自分のことを見てもらえるように。
それが、たとえ本当の自分じゃなくても。
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作者名：朔間文秋 | 作成日時：2022年10月23日 13時
