偽者の花嫁 【中原中也】

１６話 ページ17

『…一応…か。』









その言葉は





チクチクと心に刺さった







優しくしてくれたのも





料理を美味しいと笑ってくれたのも





手を握ってくれたのも









それは一応夫婦だから






相手が違う女の人でも




中也さんは同じことをして






愛していなくても






一応夫婦だからと言って優しくする









『…ひとりで浮かれて馬鹿みたい…』









ダメだなぁ、と言って無理やり笑った




無理やり足を進めた









『中也さん、…似合いますか？』








「あァ、似合ってる。それにするか？」





『…はい、ありがとうございます。』









せっかくだから着たまま店を出た。




そのまま車で話していた中也さん行きつけのレストランに向かった








車内は恐ろしいほど無言だった







私も話す気になれずただ外を見るだけだった









「やっぱ、家に帰るか」






ふと中也さんはそう言った








『…ぇ。』








中也さんはすかさず運転手に自宅に戻ることを伝えまた黙った







気が変わったのかな








まぁ、…いいや









私も胸が少し痛かった








策略結婚とは分かってても





中也さんの優しさが






笑顔が






温かくて







忘れてしまって







中也さんの何気のない言葉でも傷づいてしまってこのざまだ。








自分の立場を見失っていた









私は志水家の長女の身代わりで





これは策略結婚であって









＿＿＿＿＿私が幸せになってはいけないことを

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