No.37 ページ37
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「久しぶりだな、A」
『はい、お父様。今日はどうしたんですか』
メールの正体は、もう何年も会っていなかった父親から。ちなみに母親はまだ私を見たくないのか、どこにもいない。
そして今いるのは、とある会場の一室で私は何故か背中が丸見えのパーティードレスに着替えさせられていた。
今まで一人暮らしの私に仕送りのみしてくれていた両親。しかし顔を合わせることなんて一切なく、正直今顔を見ても「こんな顔だっけ」といまいちピンと来ない。
「喜べA、やっとお前の個性が活かされる時が来た」
『へぇ、それはどんな算段で？』
「神崎グループの御曹子、神崎唯也から情報を聞き出して欲しい。上手くいけば我が感宮財閥は大きく昇格するだろう」
聞き出す方法はもちろん、とニヤリと口元を上げる父親に私は瞳を大きく広げた。
(コイツは良い駒になる)
そんな心の声を最後に、私は大勢の人が楽しむパーティーの中へと放り込まれた。只でさえ喋り声でざわざわと騒がしいのに、その上心の声もチラホラと聞こえるものだから気分が悪くなる。
開始の挨拶も始まる前に、私はバルコニーへ足を向け風に当たることにした。
『ついさっきまで学校にいたのに…夢みたい。
……轟くん…』
煌びやかな世界で彼の名前を呟けば、無性に会いたい気持ちが込み上げてきて泣きたくなってしまった。
早く終わらないだろうか、そしたら轟くんに会えるのに。こんなにも、もどかしい気持ちになるのはきっと……。
紅白色の髪、グレーとターコイズブルーのオッドアイ、整った顔、左目周りを覆う火傷の痕。
そんな彼が笑った顔を思い出しては、頬が赤く染まっていくのを感じた。
『お父様の言いなりなんて、なりたくないっ…』
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作者名：空涼
| 作成日時：2019年5月10日 19時
