心の中の宝箱 ページ50
ふるふると首を振った。
「……できない」
つばさに諦めろと言った手前、側にいたいとは口が裂けても言えない。苦しくても、それがAの選んだ道。
「私が…あの人を、遠ざけたから」
「…そう」
この気持ちは、心の中の宝箱にそっとしまっておくべきものなのだ。外に出して、見せてはいけない。
傷ついて泣くのは今日だけ。
綾乃から離れて、両手で涙を拭う。
「…崎山さんに他に好きな人ができてもいいの？」
「…他に」
Aだけに向けられていたつばさの笑顔が他の誰かに向けられる。そう考えると胸の奥が鈍く痛んだ。同時に強く胸を揺さぶられる。想像しただけでも、床が崩れてしまいそうな感覚に陥る。
「……嫌だ」
涙がまた溢れた。つばさの視線の先に、他の誰かがいるなんて想像だけで嫉妬でどうにかなりそう。
「嫌でしょ？」
こくりと頷いた。いつの間にかこんなに好きになっていて、想像に嫉妬して泣いている。
「頑張って」
髪を撫でて、抱きしめられる。今日はずっと泣いてばかりで、頭が痛くなってきた。
恋愛経験が皆無のAが、はじめて恋をした相手は6歳も歳上の、有名人。2.5次元を中心に活躍する俳優だった。それに気付けただけで今日はもう良いということにした。
目に冷たいタオルを当てて、床に寝転ぶ。
「お姉ちゃんは植田さんと付き合う時、どんなんだったの？」
「それ、聞く？」
「うん、聞きたい」
Aの隣に座って、綾乃は髪を撫でる。
「Aとそう変わらないわ。最初に好きになったのは向こうなのよ。しつこいと言うか、諦めが悪いと言うか…。何度フッても好きって言ってくるのよ。で、そのうちに私が根負けしたわ。好きになっちゃった」
ふふ、と笑う気配がする。
「ほんとだね。崎山さんと一緒。あの2人、仲良しだから似るものなのかな？」
「どうかしらね…」
「…いいなぁ」
「大丈夫よ」
Aの頬を両手で挟む。
「絶対大丈夫だから」
「うん。ありがとう」
そう言いながら、Aは前髪をかき上げた。気付いたばかりの想いをつばさに伝えることはできない。遠ざけたのはAだから。今、きっとつばさはAを諦めようと頑張っているはずなのだ。
だから、苦しくてもAも彼を諦めるべきなのだ。それができないと、Aはつばさとまともに話すことすらできないと思うから。
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星ノ宮昴(プロフ) - westさん» ありがとうございます！そう言っていただけると励みになります！ノリで書いているので、更新はかなり不定期ですが、よろしくお願いします (2021年3月7日 23時) (
レス) id: 0939823488 (このIDを非表示/違反報告)
west - コメント失礼します！読んでてすごい面白くて、あっという間に読んでしまいました！これからも陰ながら応援させていただきます！ (2021年3月7日 22時) (レス) id: 4daf55a770 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年2月3日 1時
