過去形 ページ47
家に帰ると、つばさはまた泣きたくなった。
リビングにいれば、無意識にキスをしたことを思い出す。顔を真っ赤にして驚く彼女がかわいくて、嫌ではないと言いながら唇を両手で覆う姿が愛おしかった。
Aが座っていた場所に手を置いて、泣き崩れた。そこに彼女の温もりはもうない。
突然キスをして、叩かれたり、突き飛ばされたりしている状況だったのに、何もしなかった。少しくらい抵抗してほしいと思ったのは記憶に新しい。
その足で寝室に向かう。彼女が一晩過ごした場所。目について、クローゼットを開いてパーカーを取り出す。動物園に行く時に迷惑をかけたからとAにもらったものだ。
「Aちゃん…」
ベッドに座って、パーカーを抱きしめる。ベッドにもパーカーにも、彼女の温もりなんて残っていないのに、彼女がいた場所を辿ってしまう。
誰も見ていない1人の空間で、泣き続けた。こんなことになるなら、彼女を海になんて連れて行かなきゃ良かった。今更後悔したって、後の祭りだということは充分分かっているのに、後悔せずにはいられない。その代償に失ったものが大きすぎた。
「………Aちゃん…」
何度名前を呼んでも、返事もなければ、つばさに向けられる大好きな笑顔もない。
この先、A以外の誰かを好きになんてなれない。きっと、ずっと彼女だけが好きで他の男と一緒にいる姿を見かけるたびに嫉妬し続けるのだろうと思う。
「Aちゃん」
Aは美人で、笑顔がかわいい。彼女を好きになる男はたくさんいるのだろう。つばさもその大勢のうちの1人なのかもしれない。誰にでも優しくて、屈託なく笑うから、つばさは嫉妬しないわけがなかった。その笑顔も、彼女の全てを独占したかった。
「大好きだった…。愛して、いたよ」
言葉を過去形にすることで無理矢理言い聞かせる。そうしてみても、膨らみきった想いが萎んでいくことはなかった。ただただ、募る一方で膨らみきった風船がさらに大きくなっていく。
『好き』なんて言葉じゃ言い表せられないほど大きくなっていた気持ちを整理できずに持て余した。大きな体を小さくして、彼女にもらったパーカーを抱きしめて、涙を流し続けた。
半年の猶予さえなくなって、フラれた悲しみでしばらくは立ち直れそうもない。
「大好きだった…」
もう一度呟いて、ベッドに倒れ込んだ。
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星ノ宮昴(プロフ) - westさん» ありがとうございます！そう言っていただけると励みになります！ノリで書いているので、更新はかなり不定期ですが、よろしくお願いします (2021年3月7日 23時) (
レス) id: 0939823488 (このIDを非表示/違反報告)
west - コメント失礼します！読んでてすごい面白くて、あっという間に読んでしまいました！これからも陰ながら応援させていただきます！ (2021年3月7日 22時) (レス) id: 4daf55a770 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年2月3日 1時
