今度こそ ページ46
この状況で、Aの側にいるリスクが高いことはつばさにもよく分かる。でも、彼女の手を離したくなかった。
何度も何度も流れる涙が服に染み込んだ。
「崎山さんだって、本当は、分かってる、んじゃないの？」
瞳が揺れている。俳優の仕事も、Aのことも同じくらい大好きだから、言われる言葉が胸に刺さる。身を切られるような痛みに、涙が滲む。流すまいと精一杯目に力を入れる。
「今は辛くても、離れるのが、お互いのため。大丈夫だよ。会えないわけじゃない。私は作家で、あなたは俳優だから」
「………分かった。でもね、Aちゃん。そう簡単には忘れられないってこと、覚えておいて」
言葉もなく頷くAの手を引いて、抱きしめた。髪を撫でて、潤む瞳を誤魔化した。
「付き合いたかった。同じ時間を共有したかった。俺が笑顔にしたかった。大好きだった。ううん。今でも大好き。…大好き」
震える肩。抑えきれずに声を出す愛しい人への想いと訣別しなければならない。それが辛くて、苦しくて、切なくて涙を我慢できなかった。
「…出会えて、恋をして…幸せだった。報われなかったけど……本気で愛していたよ」
膨らみきった想いが、いつかは報われる日が来ると信じてつばさは彼女に想いを伝え続けてきた。なのに、たった1枚の写真で一瞬にして崩れ去るなんて思わなかったのだ。
「…ありがとう」
「泣かないで」
Aを離して、その頬を拭う。
「そっちこそ」
「あーあ、今度こそフラれたかぁ…」
「…じゃあ、行くね」
しゃがみ込んだつばさにAは声をかける。次に会う時、Aはもう好きな人ではない。
「うん。…またね」
小さな背が見えなくなる。つばさは髪を掻き乱した。初夏、ひとつの恋が終わろうとしている。失恋の経験はあるけれど、今までで1番辛くて苦しい。
笑顔も、匂いも、話し方も、何もかもが心に刻まれている。
カフェに行くといつもミルクティーを注文する。怒ったり泣いたり笑ったり、コロコロと表情が変わるのが面白くて、見ていて飽きない。大好きだった。彼女だけが特別で、半年の猶予をもらえた時は本当に嬉しかった。なのに。
目を閉じればAの笑顔が浮かんで、余計に苦しくなる。
あと何度泣けば苦しいほどのAへの想いに蓋ができるだろうか。
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星ノ宮昴(プロフ) - westさん» ありがとうございます！そう言っていただけると励みになります！ノリで書いているので、更新はかなり不定期ですが、よろしくお願いします (2021年3月7日 23時) (
レス) id: 0939823488 (このIDを非表示/違反報告)
west - コメント失礼します！読んでてすごい面白くて、あっという間に読んでしまいました！これからも陰ながら応援させていただきます！ (2021年3月7日 22時) (レス) id: 4daf55a770 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年2月3日 1時
