人生で初めての ページ41
「分かった」
Aはつばさの正面に回ると、頬に触れる。
「苦しめてごめんね」
悲しそうに笑う彼女に、つばさは無意識に身を乗り出していた。
唇に触れる温もりがつばさのものであると理解するのに時間がかかった。
ハッとして、つばさはAの肩を押して離れた。
「ご、ごめん！」
時間にして十数秒の口付けだった。少し長く感じるようなキスだったけれど、反応できなかった。Aは呆然とつばさを見上げる。
つばさはAの唇を親指で拭って、頭を下げた。
「………な」
両手で唇を覆うAは顔を真っ赤にしてつばさを見つめる。人生で初めてのキスをこんな風に奪われるとは思わなかった。今まで恋なんてしてこなかった彼女が誰かとキスをしたことなんてあるわけがない。
「本当、ごめん。…嫌なら突き飛ばしてよ」
「嫌、じゃない…けど」
大きく鳴る鼓動の音がつばさにまで聞こえてしまいそう。Aを見つめる視線には驚いたような感情が孕まれていた。
「…びっくりした」
「…そういうところ」
つばさはAに背を向ける。大きな背中が今は少しだけ小さく見えた。
「これ以上何かする前に行って。今は優しくしないで。お願いだから」
「分かった。おやすみ」
「おやすみ」
Aは立ち上がって、部屋を出た。隣の部屋のドアを開けた。シンプルなレイアウトの部屋で、色や家具の選び方もセンスがいい。Aのカオスな部屋とは全然違う。
つばさのベッドに潜り込んで、腕で目を覆った。頬は相変わらず赤い。
「どうしよう…恥ずかしいよ…」
つばさに言ったように嫌ではなかった。だからといって、嬉しくもない。目を瞑ると、その時の光景が浮かんできて、パッと目を開けた。鼻まで布団を引き上げて、早くなる胸を押さえる。
「…ファーストキスだったのにな…」
キスの感触がまだ残っていて、恥ずかしい。
「そういえば夢で…」
前につばさとキスをする夢を見たのを思い出した。夢の中では恋人同士という設定で、キスをすることに違和感はない。でも、今回は現実でつばさとAは付き合っていない。好きだとは言われていたし、半年以内に振り向かせると言われているけれど、まさかキスをされるとは思ってもみなかった。
大きなため息をついて、つばさの匂いに包まれながら瞼を閉じた。少しでも眠れるようにと。
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星ノ宮昴(プロフ) - westさん» ありがとうございます！そう言っていただけると励みになります！ノリで書いているので、更新はかなり不定期ですが、よろしくお願いします (2021年3月7日 23時) (
レス) id: 0939823488 (このIDを非表示/違反報告)
west - コメント失礼します！読んでてすごい面白くて、あっという間に読んでしまいました！これからも陰ながら応援させていただきます！ (2021年3月7日 22時) (レス) id: 4daf55a770 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年2月3日 1時
