わがまま ページ33
「俺は今、Aちゃんを口説こうとしてるんだけど」
「口説くって……」
「Aちゃんが恋が分からなくて怖いなら、知ればいいって言ったでしょ」
つばさの横顔を見上げて、Aは頷いた。
「うん」
「だから、俺はAちゃんに会う度に口説こうと思う。そうやって、知っていってよ」
「……分かった」
横目でチラリとAを見て、つばさは彼女の髪を撫でた。
「そういう、素直なところも好きだよ」
パシッとつばさの手を払う。払われた手をハンドルに戻して、つばさは笑った。
「どこ向かってるの？」
「夕日が綺麗なところ」
「夕日って、今日曇りだよ？」
「うん。でも、夕焼けが見られるかも知れない」
「そんな都合よく事が進むわけないでしょ」
呆れながらも、Aは付き合ってくれるようだ。車の中、シートにもたれながらつばさとAは他愛ない話をずっとしていた。時に舞台の話だったり、趣味の話だったり、いろんな話をした。
まだ明るい時間帯に着いた場所は海だった。駐車場に車を停めると、つばさは外から助手席のドアを開けてくれた。それに礼を言って降りるが、Aは内心焦った。Aは基本的に水が苦手。風呂や雨は平気なのに、プールや海は少しでも水面が動くと恐怖で声が出なくなるのだ。
「さっ、崎山さん！」
駐車場を出て、少し歩くとそこはもう海だった。お腹の底から恐怖心が沸き起こってきて、1人では歩けそうにない。
車をロックして、振り向いた彼にAは顔を真っ赤にしてお願いした。
「手を、引いてくれないかな…」
「えっ？」
「手を引いてくれないと、私動けない」
「かわいいお願い。……もしかして、海苦手だった？」
Aはつばさの問いに少しの間逡巡してこくりと小さく頷いた。
「ごめん！全然知らなかった！…場所変えようか」
慌てるつばさの手を掴んで、Aは首を振った。
「いい。……夕焼け、見たい。だからいい。手を貸してくれれば、いい」
「分かった」
つばさはAの左手を握った。
「わがまま言ってごめん」
つばさの手に引かれるまま、Aは歩きながら謝った。
「そんなの、わがままじゃないよ。もしわがままだったとしても、Aちゃんのわがままならいくつでも聞いてあげたいけどね」
押しては返す波の音がよく聞こえる。Aは縋るようにつばさの手を強く握る。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 38人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
星ノ宮昴(プロフ) - westさん» ありがとうございます！そう言っていただけると励みになります！ノリで書いているので、更新はかなり不定期ですが、よろしくお願いします (2021年3月7日 23時) (
レス) id: 0939823488 (このIDを非表示/違反報告)
west - コメント失礼します！読んでてすごい面白くて、あっという間に読んでしまいました！これからも陰ながら応援させていただきます！ (2021年3月7日 22時) (レス) id: 4daf55a770 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年2月3日 1時
