楓 ページ48
綾乃の部屋。Aはお茶を淹れて持っていく。全て緑茶で、温かい湯気が立ちのぼっていた。
「ありがとうね、A」
「いーえ〜。お茶を淹れるのは得意だからね」
Aはそう言ってそれぞれにお茶を配っていく。3人分のありがとうが返ってきて、Aはにこにこと嬉しそう。
「喫茶店でバイトしているものね」
「うん。楓の紹介でね」
まだ今ほど知名度がなく、作家として伸び悩んでいた時。作家業だけではやっていけないので、どこか働く場所を探していた。当然父親の仕送りなんてものは嫌で、全部突き返してきていたので、大きい家に住みながら生活はカツカツだった。
そんな時にたまたま楓が『うちに来れば？』と誘ってくれたのだ。彼はその喫茶店で正社員として働いている。ゆくゆくは独立して自分のお店を持つのが楓の夢。とりあえず話を聞いてみると、かなり好条件で働けるようなので、面接を受けもともと人手不足なのもあり、すぐに採用された。
「楓には感謝してるけど、あいつうちをサッカーゴールと間違えてんじゃないかな」
「何言ってんの。そんなわけないでしょ。たまたまよ、たまたま」
「そうは言っても、年1くらいのスパンで割られると本当に困るんだよ」
眉間に皺を寄せるAは本当に困り顔だ。
「次やられたら真夏に3時間屋根から吊るす」
「やめなさい」
物騒なような、残酷なようなAの言葉を綾乃がすぐに嗜める。
「3時間ってやばい」
「3時間の苦痛は地獄だよ」
つばさの言葉にAはそう言って頷いた。
「まったく。仲良いんだか悪いんだか」
「犬猿の仲だよ。私と楓は相容れない」
そう言って顔を顰めた。楓とは家が近いだけで、仲良くもなんともないただの腐れ縁というのがAの見解だ。周りには顔を合わせればすぐに言い合いを始めるほど、大の仲良しだと思われているのだが。
「聞いてる限り、楓ちゃん？と仲良さそうだけど」
つばさはそう言って微笑んだ。
「楓ちゃん…」
Aはふふ、と笑い出す。口元を両手で押さえてツボにハマったように、肩を震わせて笑った。
「あれ？Aちゃん？」
「いや、ごめん…」
つばさから顔を逸らして、Aは顔を赤くして笑っている。その隣でつばさが戸惑っている。
ひとしきり笑った後、Aはスマホを取り出した。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2020年6月14日 15時
