行列 ページ44
可愛らしい顔は嬉しそうに頬を緩め、隣を歩く華奢な体が全身で感情を伝えてくる。
「パンダ、好きなの？」
「うん、大好き！」
問いかければ満面の笑みが返ってくる。つばさを男として見ていないその瞳を『パンダ』という3文字がいとも簡単に喜ばせる。天気はあいにくの曇り空だが、彼女と一緒に来れて良かったとしみじみ思う。
パンダには少しだけ嫉妬してしまうがこんなに嬉しそうに笑っている彼女が見れたことが嬉しい。そして、パンダが好きという彼女に関しての新しい一面を知れて良かった。
「にしても、すごい並んでるね」
「うん。でも、崎山さんが作る行列よりは全然少ないよ」
そう言って、歯を見せて笑った。
「去年のソラマチのリリイベ、午後のミニライブで私最後尾にいたのだけど、肩から上しか見えないくらい人がいたし。ハイタッチ会はできなかったけど、握手会この倍の行列だったよ！それに、崎山さんの手がすべすべで綺麗だったし、近くで見たら目がほんとに大きくて感動したのを覚えてる」
だんだんと脱線しながら語るAの姿がやはりつばさにはかわいく見えてしまう。
つばさのことを目を輝かせながら嬉しそうに語るその笑顔がまた好きという気持ちを大きくする。パンダへの少しばかりの嫉妬心もその笑顔と言葉ですぐに吹っ飛んでしまった。
「なんだ。来てくれてたなら言ってくれれば良かったのに」
「そうだね……」
言いかけて、Aはぶんぶんと手を振った。
「いやいや、去年は私たち出会ってなかったから！私は崎山さんのこと一方的に知ってたけど崎山さんは私のこと知らなかったよね？言うもクソもあるかっ」
そのツッコミにつばさは声を立てて笑う。
「もう、私はボケ担当なのに！」
そう言ってAは笑った。つばさはその笑顔に手を伸ばし、頬に触れる前に手を差し出した。
「俺の手が綺麗だって言ってくれたから。触ってもいいよ」
ほんのりと色づいた頬をAに気付かれないようにつばさはさりげなく顔の角度を変えて隠した。無意識に頬に触れようとしてしまったことが恥ずかしい。それを誤魔化そうとしてナルシストのような言葉を発してしまったのが恥ずかしい。
その手をAは両手で包んで押し返した。そんなのAは求めていない。
「そういうのはまりちゃんとやっててよ」
「麻璃央にはやらないよ」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2020年6月14日 15時
