作家と舞台俳優Ⅱ (ページ5)

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病気ページ5

一言、兄の声を聞いた途端涙が溢れてしまった。
その後はボロボロで、言葉にすらなっていなかったと思う。それでも優しく聞いてくれる兄に心が落ち着いた。

兄弟全員に話をした後、Aはその場に蹲っていた。
明日、兄弟全員帰ってきてくれると言ってくれた。
母も明日家に帰る許可を医師にもらった。父は誘ってみるけれど帰るかどうかは分からないと兄は言っていた。久しぶりに家族で過ごす夜。でも、気分は全然楽しいものではなくて。まるで、いつ崩れてもおかしくないような、ボロボロの地面の上にいるようだ。

「……お母さん…」

一番近くにいたのはAだったのに、どうして気付かなかったのだろう、と今更後悔する。

母もうまく隠そうとしていたのだろうけど、それにしても鈍すぎる自分が嫌になる。何度も発作を起こしていたのに、それを取り乱しているだなんて勘違いして。その本当の理由に全く気付けなかった。気付こうとしなかったのかもしれない。

愚かで、想像力が足りない。こんなんで、本当に小説家をやっていていいのだろうか。

6年間、和歌の回復だけを願っていた。ただ純粋に、いつか退院して和歌が家に帰ってくる。そんな未来をずっと思い描いていた。
そんな夢も儚く消えてしまうのだろうか。

Aの心をそんな恐怖が締め付けて苦しめる。兄弟4人、1人でも和歌の病気を疑ったことがなかったのだ。

心臓が氷の手で掴まれているように苦しくて、呼吸すら、できていないような錯覚に陥る。
たった1人の、大好きな母を失うのが恐ろしくて仕方がない。
母を失ったら、この先どうやって生きていけばいいのか分からない。
それほどに、母はAにとって大切で、かけがえのない存在だったのだ。