和カフェ ページ39
「崎山さんだってカッコいい」
ふいと、赤くなった顔を背ける。
髪につけたリボンがふわりと揺れる。
小さな、呟くような声で放ったAの言葉につばさの胸は騒ぎ出す。
「ありがとう」
平静を装ってそう返すが、恋心を自覚してしまったつばさの胸中は冷静でなんていられない。
きっとファンとしての何気ない一言だったのだろうけれど、その声で紡がれた褒め言葉は他のどんな賞賛の声よりも嬉しいものだった。
そうこうしているうちに最初の目的地、カフェに到着した。緑の看板に白字で『和カフェ・こもれび』と書いてある。和テイストの店内は居心地が良かった。
案内された椅子に腰掛けると、メニュー表を開く。パラパラとめくると、説明と共に写真が貼ってある。和カフェ、というだけあり和食が中心のよう。
和風パスタ料理に、丼物や定食、ハンバーグなどの肉料理など種類は豊富だった。そして、最後のページにはスイーツが載っていた。
スイーツに目を輝かせながら選ぶ姿がまるで小動物のようで笑顔が溢れた。思わず抱きしめたくなるような、撫で回したくなるような、可愛らしい仕草にキュンとした。
「決まった？」
優しく問えば、Aは頷いた。
「どれ？」
Aの細い指がたどる先を見て、つばさはそれを瞬時に覚える。
「あとね、このわらび餅」
そう言ってAは輝かんばかりの笑顔をつばさに向けた。
「すみません」
店員を呼んで、つばさが注文を済ませてくれる。自分の分は言うつもりだったが、タイミングを逃した。
「ありがとう」
礼を言えば笑顔が返ってきた。
ふと店内に視線をやる。目に飛び込んできたのはショートカットの女性店員。
歳は20半ばごろだろうか。細身で背が高く、お盆にスイーツを乗せた姿がやけに絵になる。
目は大きく、鼻はスッと通っている。形の良い唇は笑顔を湛えていた。
誰が見ても美人だと言われるだろう顔立ちとモデル体型。その美貌に言い寄らぬ男性はいないだろう。
「崎山さん、見て」
そう言ってつばさの視線を彼女に誘導した。
少しだけ前のめりになって小声で話す。自然と近付いた距離。つばさとしては嬉しい限りだ。
「めっちゃ美人さん」
小声で話さなきゃいけないという道理はないが、なんとなく声を潜めなきゃいけない気がした。彼女の姿が神聖なもののような気がして、大きな声でその話をできなかった。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2020年6月14日 15時
