返信 ページ27
つばさはAからのメールに気付いて圭輔がいるというのに、その顔を綻ばせた。
「つばさ、気付いとる？顔面崩壊してんで」
「え？」
つばさはスマホを持っていない手で顔を触った。顔が緩んでいる自覚はあるが、崩壊とは、と内心首を傾げた。
「ホンマにAちゃんのこと好きなんやね」
緩みっぱなしの表情筋はなかなか締まらない。絵文字なんて使わず、文章と記号だけの文面だが、意中の相手からメッセージが届いたことがとにかく嬉しいのだ。
「うん、好き」
自覚してしまえば後戻りはできない。もう彼女以外の女の子は視界にも入らないのだ。
「そういえば、Aちゃんって確かつばさのファンやなかった？」
「うん、そう言ってくれたけどファンと恋は別って感じだったよ」
ファンの中にはどうにかしてお近づきになろうとする人もいる中で、Aは憧れとしてつばさを見守っている節がある。
それはとても嬉しいことなのだが、恋愛対象としては見られていない、ということでもある。
「で、返信せんの？」
ずっと画面を開いたまま、文字を打つ気配のないつばさに問いかける。
「かわいいなぁって」
「あー、はいはい」
聞いた自分がバカだった、と緩みきったつばさの顔を見て圭輔は笑った。
片想い中の友人を、圭輔は心の底から応援している。その想いが叶ってほしいと思うのだ。
やっと動き出した指はAのメッセージに返信するために文字を綴った。
『こちらこそありがとうね！Aちゃんの心の靄が少しでも晴れたなら嬉しい！お礼なんて気にしなくてもいいのに。でもありがとうね』
『Thank you』という文字を頭上に浮かべ、笑顔のパンダのスタンプを送る。
画面を落としてつばさはスマホを机に置く。
5月ももうすぐ終わる。『刹那の宴』の稽古が1週間後から始まる。Aが東京にいるのは1週間。丁度稽古初日が始まる日だ。
それまでのどこかで一緒に過ごす時間を確保したいものだと思う。
予定を確認するのも彼女を誘うのも明日にしてつばさはお茶を一口飲んだ。
出会ってからまだ数回しか会っていないのに、頭の中はAのことでいっぱいだった。
「会いたいなぁ…」
「俺も、綾乃に会いたい」
そう言って2人笑い合った。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2020年6月14日 15時
