惚気 ページ24
Aを送り届けた後、つばさは誘われて圭輔の家へ来ていた。
「山崎くん」
「いやいや、逆逆‼」
苗字をひっくり返して呼ばれて、つばさはすかさずツッコミを入れる。
「誘ってくれてありがとう、田植くん」
「いやいや、逆逆‼」
同じボケとツッコミを繰り返して笑う。2人の定番のギャグ。
お茶を淹れて、2人語り合う。湯気がたつそれを一口啜ってつばさは机にことりと置いた。
「時雨さんに会ったよ。植ちゃんの彼女の」
「綾乃、刹那の宴の衣装担当になったって喜んどったわ」
「さすが彼氏」
さらっと恋人の予定を話す彼にに、ヒューヒューという効果音がつきそうなテンションでつばさが圭輔をからかう。
無意識に口にした言葉でからかわれるとは思っていなかったのか、圭輔の頬が紅潮する。
「やめろ、やめろ！綾乃が話してくれたから知っとるだけや！」
慌てる彼を、ファンが見たら「かわいい」のだろう。好きな人と想いが通じ合って、付き合っている彼が少しだけ羨ましいと思えてしまう。
「そうやってナチュラルに惚気られる植ちゃんが少し羨ましい」
圭輔は一瞬、目の前でにやける同い年の男の腹にグーパンをしてやりたい衝動に駆られた。
「その顔ムカつくわぁ」
そう言って圭輔は前髪をかき上げた。ムカつく、と口では言いながら口角は上がっている。
「時雨さんはいい人だよね。妹想いで優しい。いいお姉ちゃんだよ」
独り言のように、そう言うつばさはどこか遠くを眺めていた。その先にいる人は。
「つばさ、綾乃はダメやで」
「いや、誤解‼」
肩を震わせて笑うつばさに圭輔はホッとしたように息を吐き出した。
「まだ出会ってからそんなに経たないんだけど………好きになっちゃったんだよね」
「へぇ、どんな子？」
「植ちゃん知ってるかな？Aちゃん」
「綾乃の妹の？」
問いかけに、つばさは頷く。きっかけはなんだったのかは分からない。最初に話をした時から惹かれていたのかもしれないし、2人でお茶をした時かもしれない。
まだ出会って1月も経っていないのに、こんな気持ちになるなんてあり得ないのかもしれないけど、つばさはAのことを本気で好きになってしまったのだ。
「そないなことあらへん。俺かて綾乃に出会ってすぐ好きになったし」
「そうなんだ。6歳も下の子に好きになってもらえるのかな…」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2020年6月14日 15時
