AYA_NOブランド ページ11
「Aちゃん、おはよう。窓大丈夫だった？」
爽やかな笑顔。大好きな俳優が問うてくる。
「崎山さん。おはよう。………窓…」
つばさの言葉をなぞるようにそう言って、Aは思考を巡らせる。
雑に記憶を辿って、窓というキーワードに当てはまる出来事を思い出した。
記憶を鮮明に掘り起こしていたら、つばさの前で泣きそうになるので、和歌の死には触れないように。
「…大丈夫。すぐに業者さん呼んだから」
「良かった」
「心配してくれてありがとう」
そう言ってAは微笑んだ。その笑顔がぎこちないことを本人だけが知らない。
「…崎山さん、ちょっとお願いがあるんですけど、いいですか？」
「いいよ」
翔子の突然の申し出につばさは快く頷いた。
2人の背中を見送ってAはふう、と息をついた。無意識に余計な力が入っていたことに気がついた。携帯の黒い画面に自分の顔を映して、強張っていることに気付いた。
「何が、仕事には響かせない、だよ」
昨夜、姉に言った言葉を思い出して自嘲した。全然自然になんて振る舞えていない。いつも通りなんて、もう。
「わかんない……」
蚊の鳴くような声で言って、俯いた。
他の役者やスタッフが挨拶しにくるが、Aは精一杯のぎこちない笑顔で対応した。
どんなに笑顔を作っても、自然な動作がどうしても分からなくなってしまう。それは喪失感と悲しみと苦しみと痛みと、そういった負の感情に支配されて心に余裕がないから。
「A、しっかりなさい」
顔を上げると、綾乃が立っていた。
「仕事には響かせないなんて言ったのは誰？」
綾乃の手がAの二の腕を掴む。
「原作作家のあなたがそんなんじゃ、いい舞台なんて作れないわ。物語の世界観を1番理解しているのはAなんだから。仕事じゃなければどれだけ泣いたって、迷惑かけたっていいから。今は毅然としていなさい」
「……うん」
綾乃の言葉に頷く。プライベートで何があったとしても、仕事にまで影響を及ぼしてしまっては作家失格だ。
自然に、なんて意識している時点でそれはもう自然でもなんでもないのだ。
綾乃の言葉で心が少し落ち着いた。
「お姉ちゃん、なんでここに？」
問えば、綾乃はふふん、と胸を張った。
「刹那の宴の衣装は全てAYA_NOブランドが製作させてもらうのよ！」
「ほ、本当？」
Aの瞳がきらりと光った。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2020年6月14日 15時
