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42~MS~ ページ42

MS side
Aに出会ったのは大学のころ。
あの頃はAを手放すことなんてありえないとずっと思っていた。
あいつが離れたいと言わない限り、離すつもりはなかった。

でもあの日。
いつも通り人懐っこく、愛らしい笑顔を浮かべて隣を歩いていたAが突然落ちていった瞬間、世界が全て止まった。
額から大量の出血を起こし、倒れるAを前に俺は一瞬何もできなかった。

ただ医者としての本能か、目の前の状況に頭が追いつく前に身体が自然に動いていた。

すぐに近くにいた看護師を応援に呼び、救急に運び、出血を止め額を縫った。
自分がやったことの全ては覚えていた。
でも、なにも感覚はなかった。
頭はどこか他人事のような感覚で、それでいて身体は現実に向き合っていて、完全に心身乖離状態だった。

Aが目覚めるまでの4日間、仕事をしていても、何をしていても、どこか上の空で、休みのたびにAの部屋を訪れた。
何度も見てきた寝顔でも、いつ目覚めるかもわからないそれを見ているのは、とてもじゃないが耐えられるものではなかった。


Aがやっと目を覚まして、早々に夜勤に復帰すると言い出した。

「それまでちゃんと休むから。」

目覚める少し前に新しく巻き直した包帯を見て、心が痛んだ。
こんな状態になってもなお、Aは自分の身体を顧みようとはしない。
なんとしても止めなくてはいけない。
そう思いながらも、それに適した言葉が何も思い浮かばなかった。

『師長に今日はもう帰っていいって、許可もらったから、俺も夜勤で上がりだから一緒に帰るぞ。』

そんな許可もらってなどいなかった。
言えば許可がもらえるのは明らかなことではあった。
それにしても、今の俺には、人の名前を借りないとどこまでもムリを続けるAを止める力はなかった。

あまりの自分の無力さに自分が情けなかった。

ただそれをAに悟られたくなくて、貼り付けたような笑顔で病室を出るのが今の精一杯だった。

『なにが医者だ。』

大事な人をまともに救うことも、癒やすこともできない。
こんなやつがなにを守れるっていうんだ。

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作者名:ミルキー | 作成日時:2018年5月2日 8時

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