君に恋するその瞬間 (ページ8)

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樹達のデビューが発表された時…私は会場にいた。

”この日はどうしても見に来て欲しい“と
お願いされ、初めてアイドルの田中樹を観に行った。

スクリーンにデカデカと並ぶ文字を見て…
会場は歓喜に包まれた。

隣りに座ってた彪くんとハイタッチをした後…
私は泣き崩れた。

その姿を彪くんは動画に撮っていて、後々見せられ
みんなにいじられた。

今まで受け入れてこなかったアイドルの樹…

受け入れるしかなくなってしまった。

そこからの樹達の仕事の忙しさはテレビを見ていれば
分かるくらいで、気軽に連絡なんてできなかった。

その間に私は彼氏ができて…一応報告はしてみたり…
そして…分かれて…またできての繰り返しで今に至る。

付き合って、別れての報告だけしていたら
今まで通りでいいって言われて…

愚痴とか相談くらい聞いてやるから
単発的な報告だけするのやめろ。って怒られた。

だから、時間がある時は顔見て近況報告したり
それこそ相談したり、泣き事言ったり…

全部私の話を樹は聞いてくれる。

それだけでモヤモヤしたものは
どっかに吹っ飛ぶのが分かった。

だからこの関係を壊したくない…そう思うようになった。

二日酔いの怠さで目が覚めた。

そして、私の上にある細い腕。

地味に重い…。

その腕をすり抜けたキッチンに向かう。

ペットボトルの水を勢いよく飲み、カーテンの外を眺める。

なんだかどんより曇り空。

「んーっ、はぁ…」

おもいっきり伸びをして調理開始。

ここに泊まった次の日は朝ご飯を作るのが私の担当。

まぁ、いつ起きて来るかも分からないから
食べるかどうかも分からない。

それでも感謝の気持ちで作っておく。

この日は私が帰る前に起きて来て

樹『おぁよ…飯、後で食うから…』

そう言ってベランダのふちに座って一服してる。

どうやったらその寝癖はつくのかと思うくらい
ボサボサの髪。

「おはよ、いいえ。
いつもありがとうね…じゃぁ帰るね！」

樹『ん…気をつけろよ、徒歩10分。』

そうタバコを持っていない方の手で
頭ポンポンされた。

ちょっと恥ずかしくて足速にその場から去った。

帰りの道中…
さっきのポンポンされたところがなんか熱くて
動揺していたら、無事我が家に帰宅。

私の家と樹の家…なんせ徒歩10分圏内。

この距離が近いようで遠くにも感じる
絶妙な距離だと改めて思った。