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目を瞑って小さく蹲っている姿がみえた
俺が知っている春ちゃんは、
こんなにもすぐ、寝てしまうような人だったのだろうか
いや、きっと違う
授業中に寝てしまうことは、多々あった
でも、遊んでいる最中とか、何かを話している最中に寝てしまう人では、なかったはず
空白の4年間
その空白の時間がすごく長い時間
なんで、春ちゃんと同じ高校にしなかったのか…………
当時、中学生だった俺は馬鹿だ
誰よりも春ちゃんのことが好きで、離したくない、なんて思っているのにその思いは小学生の頃から変わっていないはずなのに
「春ちゃ〜ん、起きて〜」
背中をトントンして起こす
でも、一切動かない
何回目だろうか
春ちゃんをこうして起こして、起きなくて頭を撫でるのは
頭を撫でるのをやめて、しばらく春ちゃんの横顔を眺める
「好きだよ。癒夢…………」
こんなの卑怯としか言えない
でも、俺はこうしないと自分の思いを伝えられないんだ
そっと春ちゃんの唇に自分の唇を重ねる
唇が離れると、しばらくして目が開く
「白雪姫みたい…………」
「……ん?」
バレなくて良かった思いが出てきた
それと同時に、ほんの少しの後悔
「阿部くん…………私がもし、樹と付き合うってことになったらどう思う?」
俺が春ちゃんのことを好きだという確信をつくような、質問
俺が、『いやだ』と言ったら春ちゃんはどう思うのだろうか
俺が、『べつに』と言ったら春ちゃんはどう思うのだろうか
俺が、『好きだよ』と言ったら春ちゃんはどう思うのだろうか
きっとどれも正解じゃない
どの言葉を言っても、今の俺らのこの関係
きっと無意味
意味があるのなら言いたい
『好きだよ』って
『樹のことなんか考えないで』って
『俺のそばにいて』って
そっと手を繋いで公園を出る
「樹…………」
家の前に突っ立っている樹
俺と春ちゃんの手が繋がっているのを見て複雑そうな顔をする
そして春ちゃんも哀しそうに瞳を揺らして、顔を背ける
多分、俺より手がかかるのはきっと樹の方だ
「二人で話しなよ、俺の家で」
「でも、あべべは?」
「お店に行くよ」
「ごめん」
俺は、その誤りの声を聞きたいんじゃない
『ありがとう』
たったその一言が欲しいんだ、聞きたいんだ
誰もが笑顔になれるような魔法の一言
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作者名:wwssseee | 作成日時:2019年6月3日 22時