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「阿部亮平くんよ!」
「あ…………」
なんとなく想像はついていた
阿部くんのすることが
きっと、親を安心させるために『彼氏』を偽ってくれたのだろう
私もそれに乗った方がいい
阿部くんがしてくれたことを、踏み潰すような形にだけはしたくはない
「へへ笑……い、い…いつ言おうか迷ってたの」
「そっか…………今度紹介してね?」
適当に嘘を言うと納得してくれるお母さん
嘘をつく時の胸の罪悪感は半端ない
後ろで悲しそうな顔をしている樹の存在に私は気づけなかった
あのまま、樹は1日私の家に泊まった
朝起きて、樹と手を繋いで港まで行って抱き合う
ここまではいつも通りだった
港を降りて大学に向かう
また適当にノートをとって帰る支度をする
「誰か待ってるのかな?あの人かっこいいね」
なんて声が聞こえた
興味もなかった
樹を待つためにあの喫茶店へ早く行きたい、
そんな思いだけが心にあった
「え……」
大学を出るとあの人たちが騒いでいた訳が分かった
まだ名を知られていないくらいの俳優さん
そして、私が''13年間''恋をし続けていた相手
「春ちゃん!」
あの、人懐っこい笑顔にまた私は心を持っていかれる
笑顔に、
声に、
行動に、
私はまた抜け出せなくなるんだ
「あ、阿部くん…………なん、でここにいるんです、か?」
「春ちゃんと話したくて笑」
やめて欲しい…………
私以外の人にこの笑顔を見せるのは、
いや、
見られたくない
私だけが知っている笑顔でいいのにそんなことを思っても意味が無いのに
心が、
体が、
頭が、
勝手に思ってしまうんだ
「喫茶店…………行こ…………?」
「うん…………っ!」
分かってる、相手が樹じゃないことぐらい
でも、落ち着かないんだ
隣に誰かがいるのに手を繋いでないことが
「ごめんなさい…………」
そうは言っても簡単に手を離すことはできない
嫌なら振り払って欲しい、なんて言える立場じゃないだろう
きっと、今の私は
「いや、別に大丈夫だよ?」
黙ったまま、歩いて喫茶店に向かう
喫茶店に着いたところで阿部くんの肩が揺れた
「どうかしましたか?」
「ここ樹も来たことある?」
「…………あ、りますけど……?」
納得したような、納得してなさそうな顔をしながら頷く
カランカラン………………
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作者名:wwssseee | 作成日時:2019年6月3日 22時