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目の前に映る、黒い外套。橙色の後ろ髪。
『……う、そ───』
来てしまったの、貴方。
駄目。それは私が死んでからの話。
駄目。もう少し待って。私は死ななくてはいけなかった。
私のことなど見捨てて欲しい。どうか庇うなどあんな選択、二度として欲しくない。
それなのに彼は、まるで王子様のように現れてしまった。
「君が阿川Aちゃん、かな？」
呆然と眺めていた私の背後から声がした。
反射的に振り向くと其処には。
ぼさぼさの蓬髪と、砂色のコート。彼方此方に巻かれた包帯。
彼のことは知っていた。元ポートマフィア最年少幹部。
───太宰治が、立っていた。
『な…！？如何して、貴方が…！？』
「蛞蝓…中也から連絡が来たんだ。私の異能が必要だって」
『……！あの便箋で…！』
太宰さんは微笑んで頷いた。
そうか、異能無効化の彼がいるなら。
良かった、勝てるかも知れないと思った瞬間、肩を掴んだのは中也さんだった。
掴んだ手には力が入っている。
「…手前…自分を殺して、四度も同じ世界をやり直したッて云うのか…！？
誰の記憶にも残らねェ！覚えてンのは手前だけ！たッた一人で、ここ迄……！」
『……はい』
「そんな残酷な───こんな、むごい話があッてたまるか……！」
『───……』
「中也」
何も云えなくなった私の代わりに口を開いたのは太宰さんだった。
中也さんの、こんな顔は初めてだった。
眉間に皺を寄せて、目を見開いて、信じられないとでも云うように私を見詰めた。
太宰さんは私に視線を流し、その後の言葉は私が繋ぐように促した。
『中也さん』
静かに微笑んで、首を振った。
『私は大丈夫ですから。それに、云ってくれたじゃないですか。
私を信じたいって』
「───A……」
『私も貴方を、信じています。
貴方が信じたもの、私にも信じさせてください』
彼は一瞬目を見開いたあとすぐ、「……嗚呼」、と返事をした。
「あとそれと」、と言葉を繋ぐ。そして渡されたのは桜色の便箋だ。預かってくれという意味らしい。
私が書いたメッセージ。
その裏に、私は他に書いたことがある。
それは、この時のこと。
時間、場所、相手の異能力とその抜け穴、注意する点など。
今までのループで集めた情報を全てこの便箋に書いたのだ。
彼が絶対に、負けないように。
……届いて良かった。
「おい青鯖。絶対に、Aだけは巻き込ませるな」
「分かってるよ、中也」
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ユリア(プロフ) - すごくいいお話でした！主人公と相手のそれぞれの気持ちが書かれた構成があまりないので、読んでいてとても新鮮でした！ありがとうございます。 (2023年2月13日 21時) (
レス) @page48 id: 4dc59746f6 (このIDを非表示/違反報告)
篠ノ井(プロフ) - とても良いお話でした‼︎与謝野先生と組んだら最強の異能だなと、考えちゃいました。素敵な作品に出逢えて良かったです。ありがとうございました。。 (2022年1月28日 3時) (レス) @page50 id: 074aca8682 (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - ふたりともとっても優しくて、お互いのことをちゃんと想い合っていて本当に涙なしには読めないくらい感動しました。ふたりの未来に幸せが訪れますように！！このような素敵な作品に出逢えてとても良かったです！！素敵な作品をありがとうございました。 (2021年12月13日 13時) (レス) @page50 id: 5d3deb0d2a (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - 一樺さん» わー！嬉しいです！読んでくださりありがとうございましたー！ (2020年6月30日 16時) (レス) id: 133caaaf3b (このIDを非表示/違反報告)
一樺(プロフ) - あぁ…よかった…素晴らしいお話でした。もう…すごく泣いちゃって…いいお話をありがとうございました！！ (2020年6月21日 20時) (レス) id: e734b1c435 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：お湯 | 作成日時：2019年3月10日 20時
