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その場に似合わない表情に、私の肺から空気が漏れ出す音がした。
「…聞いてください、Aさん。
貴方に伝えたいことがあるんです」
『やだ…！駄目、まだ…！』
「僕はずっと、貴方のことが好きだった」
『…ぇ……？』
それは、あまりにも儚く穏やかな。
暖かい、春のような眼差し。
そんな優しい目で、私を見詰める。
好き、と云われたことが信じられなくて。
ただ目を見開くことしか出来なかった。
「……でも、僕は貴方に恋をした瞬間に失恋した」
『それは、どう云う…』
「貴方が中原幹部を見る横顔はまるで、恋をする少女そのものでしたから」
さっきよりも笑みを深くして笑う姿が何だかひどく胸に刺さって、涙で前が滲んできた。
恋する少女。
一瞬何を云われたのか分からなかった。
『私が、恋…？』
「ええ」
『……知らなかったなぁ…』
こんな感情、私が持つべきじゃない。
けれど、こんなに溢れて止まらない。
…嗚呼、そうか。
私、あの人に恋をしていたのか。
この感情の名前を、私はやっと初めて知った。
気付いてしまった、から───泣きそうだ。
「Aさん。一つ、僕のお願いを聞いてくれませんか」
『…っええ。勿論です』
「僕は、貴方の手で終わりたい」
『───…っ！』
もう動かない腕の代わりに、目で訴えていた。
視線は私の銃が仕舞ってあるホルスターへ。
そんなことはさせないとすぐに首を横に振って怒鳴る。
彼の顔から徐々に血の気が引いてくるのが分かった。
『駄目です！まだ貴方は、助かるかも知れないでしょう！？』
「…いいえ。僕は、そうまでして生きていたいとは思いません。
僕は、自分がしたことを分かっていますから」
彼の瞳はぼやけてきて、口からは荒い息が出る。
…私達はマフィアだから。この最期は当然である、と。
幾度となく命を切り捨ててきた私達だからこその、罰。
固く目を閉じて、また開いて、決断する。
震える指先は、銃を持つ。
彼は安心したように、また笑った。
そして。
「僕達はもう、貴方達のこれからの物語を見れなくとも、」
鼻の奥が、ツンと痛くなった。
「貴方達の行く未来に、少しでも眩しい光があるのなら、」
視界が、ぼんやりと滲んだ。
「もうこの世にはいなくても、今此処にいる、全員が。
貴方達の幸せをきっと、願っていますから」
涙が、ぽろぽろと溢れて止まらなかった。
『……っ、うぅ、あぁ…！』
銃を、彼に向ける。
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ユリア(プロフ) - すごくいいお話でした！主人公と相手のそれぞれの気持ちが書かれた構成があまりないので、読んでいてとても新鮮でした！ありがとうございます。 (2023年2月13日 21時) (
レス) @page48 id: 4dc59746f6 (このIDを非表示/違反報告)
篠ノ井(プロフ) - とても良いお話でした‼︎与謝野先生と組んだら最強の異能だなと、考えちゃいました。素敵な作品に出逢えて良かったです。ありがとうございました。。 (2022年1月28日 3時) (レス) @page50 id: 074aca8682 (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - ふたりともとっても優しくて、お互いのことをちゃんと想い合っていて本当に涙なしには読めないくらい感動しました。ふたりの未来に幸せが訪れますように！！このような素敵な作品に出逢えてとても良かったです！！素敵な作品をありがとうございました。 (2021年12月13日 13時) (レス) @page50 id: 5d3deb0d2a (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - 一樺さん» わー！嬉しいです！読んでくださりありがとうございましたー！ (2020年6月30日 16時) (レス) id: 133caaaf3b (このIDを非表示/違反報告)
一樺(プロフ) - あぁ…よかった…素晴らしいお話でした。もう…すごく泣いちゃって…いいお話をありがとうございました！！ (2020年6月21日 20時) (レス) id: e734b1c435 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：お湯 | 作成日時：2019年3月10日 20時
