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眉を下げて、懐かしむように微笑む。
静かに髪を耳に掛けて。
…然し内心では驚いていた。
極力知られぬようにと最低限の目線で動かしていたのだが。
この男には異様なまでの鋭さと観察眼がある。
動揺を決して見せないように、眉を下げて口の端を上げた。
話題を変えてみる。
『…主人様はご本がお好き、なのですね』
「嗚呼」
疑問形では答えが来るか確信が無かった。
だからあえて断定系で聞いたのだ。
本が好き、なのは何か異能と関係があるのか。
男の異能力は本が無きゃ使えない筈。
他に何か聞いてやろうとして、あることに気が付いた。
『……あら、主人様───わたくしの紅茶はお口に合いませんでしたか？』
もう紅茶はすっかり冷めた筈なのに、机の上に一口もつけられないまま置いて負った。
若しかして紅茶は嫌いなのだろうか。
だが私は。そんな軽い判断をほんの数秒後に呪った。
「いや。そうではない」
『そうしたら、何故──』
「この紅茶には、毒が入っているからだ」
『────！』
指先がぴくりと動いた。
心臓が早鐘を打つ。背中に汗が蔦う。
不味い、と本能的に警戒を呼び覚ます。
誤魔化すように、すぐに目を細めて微笑みを貼り付けた。
『……嫌ですわ主人様、わたくしはそのようなこと…』
「演技をやめろ、娘」
全てを見抜かれていた。
きぃん、と耳鳴りが止まらない。
如何して、一体何時から、いやそれよりこの状況を───
脳で思考がぐるぐる回って、次の言葉が出て来ない。
両者に無言の時間が落ちる。
互いが互いを探るように、じっと瞳を見詰めていた。
嗚呼もう無駄だと悟ったのは私で、自然に溜息が零れてしまった。
『何時から気付いていましたか？』
「確信を持ったのは途中からだ。見破るのはなかなか難儀だった」
『其の儘気付いてくれなければ幸せだったのですけど』
「私は全ての物事に置いてまず「疑い」をかける。
だからお前が罠であることも、出会った瞬間から頭に入れて置いた」
冷静に淡々と告げられた。
琥珀色の瞳があまりに冷たくて凍えそうだった。
その瞳に光は無い。奥に見える感情は───自分には計り知れなかった。
何か。何かが、この男にはある筈なのだ。だが、それは私では見えない。
全てのものを疑うなど、どれだけ世界を信じていないのか。
……けれど、嗚呼。私は心の何処かで共感してしまっている。
駄目だと横に頭を振って、すぐにこの後のことを考える。
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ユリア(プロフ) - すごくいいお話でした！主人公と相手のそれぞれの気持ちが書かれた構成があまりないので、読んでいてとても新鮮でした！ありがとうございます。 (2023年2月13日 21時) (
レス) @page48 id: 4dc59746f6 (このIDを非表示/違反報告)
篠ノ井(プロフ) - とても良いお話でした‼︎与謝野先生と組んだら最強の異能だなと、考えちゃいました。素敵な作品に出逢えて良かったです。ありがとうございました。。 (2022年1月28日 3時) (レス) @page50 id: 074aca8682 (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - ふたりともとっても優しくて、お互いのことをちゃんと想い合っていて本当に涙なしには読めないくらい感動しました。ふたりの未来に幸せが訪れますように！！このような素敵な作品に出逢えてとても良かったです！！素敵な作品をありがとうございました。 (2021年12月13日 13時) (レス) @page50 id: 5d3deb0d2a (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - 一樺さん» わー！嬉しいです！読んでくださりありがとうございましたー！ (2020年6月30日 16時) (レス) id: 133caaaf3b (このIDを非表示/違反報告)
一樺(プロフ) - あぁ…よかった…素晴らしいお話でした。もう…すごく泣いちゃって…いいお話をありがとうございました！！ (2020年6月21日 20時) (レス) id: e734b1c435 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：お湯 | 作成日時：2019年3月10日 20時
