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手に触れたドアノブが、異様に冷たく感じる。
手が、足が、震える。
叫びたい気持ちを押し殺して、愛用の銃を自分の脳へ突きつける。
───私はこれから、自分を殺す。
『───告げる。
時を遡る門は、此処に降臨せり。』
呼吸の仕方みたいに、地面の歩き方みたいに、私は何を云うかを知っていた。
『我が手中に銀の鍵有り。我は門を開く者。
時の全てを此処に繋ぐ。
開け。開け。開け。』
唇がすらすらと詠唱を紡ぐ。
ぐにゃりと視界が歪むのを感じる。
『座標登録、開始───20190321173516
───
是より先の刻を遮断する』
思考が歪んで回る。荒い息を吐き出す。
こみ上げるのは嘔吐感。
銃を持つ手はガクガクと震え、こめかみを外れそうになる。
『──っは…、は──、っ』
でも。
彼の顔を思い出す。
記憶が決意を呼び覚ます。
私は何の為に此処にいる。
私の命は誰の為に使う。
答えはただ一つ。
私が行うのは、時間の巻き戻し。
決めれた未来の破壊。
中原中也の死を防ぐ為に私はこれから、同じ世界をやり直す。
そう。これが、私の運命だ。
『異能力──雲の墓標』
最後の言葉を呟いて。青い光に、包まれる。
引き金を引く。弾丸が、自分の頭を撃ち抜いた。
───私は、貴方を救ってみせる。
その思いを胸に抱いたまま、
阿川Aは、死んだ。
#
───やってくるのは鈍い頭痛と眩暈、そして倦怠感だった。
それらを堪えようと、奥歯を強く噛んだ。
意識が覚醒した瞬間、私の目の前にあったのは幹部室の前の扉。
見慣れた、何時ものもの。
然しそれはさっき見たものでは無く。
その証拠に扉を開けばほら、彼がいる。
『お疲れ様です、中也さん』
「嗚呼A。お疲れさん」
──彼が、生きている。
私が行ったのは蘇生では無く、時間の巻き戻し。
それが私の異能力だ。
私は彼が任務に行く前日に巻き戻してやり直すことにした。
前日のこの時間に、あの時私は座標を置いたのだ。
異能の発動の条件の一つとして、『自分を殺す』必要がある。
厄介なことに、それは自分の手で殺すこと、他殺では発動しないことだ。
自分の肉体も、世界と共に巻き戻る。
だから、あの時脳に撃ち抜いた弾丸の傷跡も、何一つ残っていない。
『明日がいよいよ任務ですか』
「そうだ。ッたく、マフィアの密輸品を盗むなンざ飛ンだ命知らずだな」
『…ええ。全くです』
溜息をついた。
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ユリア(プロフ) - すごくいいお話でした！主人公と相手のそれぞれの気持ちが書かれた構成があまりないので、読んでいてとても新鮮でした！ありがとうございます。 (2023年2月13日 21時) (
レス) @page48 id: 4dc59746f6 (このIDを非表示/違反報告)
篠ノ井(プロフ) - とても良いお話でした‼︎与謝野先生と組んだら最強の異能だなと、考えちゃいました。素敵な作品に出逢えて良かったです。ありがとうございました。。 (2022年1月28日 3時) (レス) @page50 id: 074aca8682 (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - ふたりともとっても優しくて、お互いのことをちゃんと想い合っていて本当に涙なしには読めないくらい感動しました。ふたりの未来に幸せが訪れますように！！このような素敵な作品に出逢えてとても良かったです！！素敵な作品をありがとうございました。 (2021年12月13日 13時) (レス) @page50 id: 5d3deb0d2a (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - 一樺さん» わー！嬉しいです！読んでくださりありがとうございましたー！ (2020年6月30日 16時) (レス) id: 133caaaf3b (このIDを非表示/違反報告)
一樺(プロフ) - あぁ…よかった…素晴らしいお話でした。もう…すごく泣いちゃって…いいお話をありがとうございました！！ (2020年6月21日 20時) (レス) id: e734b1c435 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：お湯 | 作成日時：2019年3月10日 20時
