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何事も無く日も暮れて、夕食も終えた夜。
Aの様子を見に行こうと彼女の部屋の前へ。
コンコンと短くノックすれば、すぐに『どうぞ』という声が聞こえた。
冷たいドアノブを握り、部屋に入るとAは窓のすぐ前に立っている。
「体調大丈夫か？」
『はい。お陰様で』
「そうか。そりゃ何よりだ」
今夜は星が綺麗だった。そんな星空を窓越しに眺めていた彼女。
よく見るためか部屋の明かりはついておらず、ベッド真横の豆電球一つの状態であたりは薄暗かった。
その隣に行こうとした瞬間、Aが何かハッとした顔で両手を広げた。
「ンだよ」
『で、出ちゃ駄目ですからね…っ！』
「ふ、っはは、ンなことしねェよ」
手を広げ首を振る様子がおかしくて思わず笑いがこみ上げた。
Aの隣に並び、同じく星空を見上げてみる。そこは無数の星々が輝きを放っていた。
星の光は、過去の光のものだという。
それはいくら手を伸ばしても届かない。
そんなあやふやな存在を、今この瞬間に見ているのだから不思議だとも思う。
「A」
『はい…？』
ふと呼ばれた名前に、Aは此方を向いた。
そして。その頬を───思いっきりつねってやった。
『い…っ！？ひょっとひゃめ…！』
「笑えよ、A」
瞳がみるみるうちに開かれる。
笑顔が消えたその顔をつねって、無理矢理に笑顔を作らせる。
「そんな辛気臭ェ顔すんな。手前は笑ってンのが一番似合う」
手をパッと離すと、つねっていた頬は赤くなり、瞳にはうっすら涙の膜が張られている。
痛みに呻きを漏らし、未だ訳が分からないという表情で俺を見詰めた。
思い出す。彼女が笑わないようになったのは、俺を攫った罪悪感や己を責める気持ちではないか、と。
それでも此奴には笑って欲しい。
例え原因はソレではなく今を闘っている辛さや苦しみだとしても。
告げるのは何処までも傲慢で単純な気持ちの押し付けだ。
「手前は何処かで苦しんでるのは分かる。俺を閉じ込めたのも…まぁ何となく察した。でも安心しろ。Aは強ェから」
『……私、は…』
「不安なら俺に頼れよ。俺が負けると思うか？
…だから、さ。笑えよ、A」
『……っ、』
Aは星なんかよりもずっとずっと輝く光。
その光は過去のものじゃなく今を輝いている。眩しくて堪らない。
長い黒髪を優しく撫でれば、彼女は困ったように云った。
『……普通、攫った人にお前を信じる、なんて云わないですって』
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ユリア(プロフ) - すごくいいお話でした！主人公と相手のそれぞれの気持ちが書かれた構成があまりないので、読んでいてとても新鮮でした！ありがとうございます。 (2023年2月13日 21時) (
レス) @page48 id: 4dc59746f6 (このIDを非表示/違反報告)
篠ノ井(プロフ) - とても良いお話でした‼︎与謝野先生と組んだら最強の異能だなと、考えちゃいました。素敵な作品に出逢えて良かったです。ありがとうございました。。 (2022年1月28日 3時) (レス) @page50 id: 074aca8682 (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - ふたりともとっても優しくて、お互いのことをちゃんと想い合っていて本当に涙なしには読めないくらい感動しました。ふたりの未来に幸せが訪れますように！！このような素敵な作品に出逢えてとても良かったです！！素敵な作品をありがとうございました。 (2021年12月13日 13時) (レス) @page50 id: 5d3deb0d2a (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - 一樺さん» わー！嬉しいです！読んでくださりありがとうございましたー！ (2020年6月30日 16時) (レス) id: 133caaaf3b (このIDを非表示/違反報告)
一樺(プロフ) - あぁ…よかった…素晴らしいお話でした。もう…すごく泣いちゃって…いいお話をありがとうございました！！ (2020年6月21日 20時) (レス) id: e734b1c435 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：お湯 | 作成日時：2019年3月10日 20時
