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今夜は月が綺麗だ。
嗚呼、太宰さんと出逢った日を思い出すなあ、なんて。
『……また、あの人のこと考えてる、私…』
自分がこんなにも未練がましいこと、今になって私は初めて気が付いた。
恋をした。愛を知った。
けれど、私は彼の手を振り払った。
彼の幸せを願うが為に。
私では駄目だった。彼の孤独を埋められない。
隣にいるのが私じゃなくても、あの人が幸せになってくれるならそれで良かったのに。
なのに。涙が、止まらない。
『……っ、コンビニでも行こ…』
気分を変えようと外に出て道に出る階段を降ろうとした先───
彼は、いた。
「A」
『……太宰、さん…』
彼方此方に巻かれた包帯。砂色のコート。ぼさぼさの蓬髪。
嗚呼、大好な人だ。
私を見上げる彼の表情は何時に無く真剣そのもので。
その瞳に恋情がこみ上げるが駄目だと直ぐに首を横に振った。
『……如何して来たんですか。私はもう二度と貴方に会わないと云ったでしょう…!』
「君に会いに来た。君にどれだけ拒まれようと、君の涙を止めに、私は何度だって君に会いに来る」
真っ直ぐに私を見詰める瞳に、今にも吸い込まれてしまいそう。
やめて、やめて。
拒絶したいのに、しなくてはいけないのに。
なのに、会いに来てくれたことが嬉しくて堪らない。
『……そんなの、狡い…っ!私はあの時、さよならって云ったのに…!』
「御免ね。君と離れるなんて、私には無理だった。君がいないと、苦しくて、寂しくて、死んでしまいそうだった」
目を、逸らせない。
太宰治という人間に、目線を縫い付けられている。
「だから、お願いだ。私を助けてくれないか、A」
『───っ!』
ぽたり。
乾いていた筈の瞳から、再び涙が零れ落ちた。
「君がいないと死んでしまいそうな私を、どうか、助けてくれないか」
まわりの世界の色が消える。音が消える。
彼しか見えない。彼の声しか聴こえない。
───嗚呼、こんなの。
『狡い…っ、狡いの…!そんな、云い方、して……私がそんなの、拒めないの分かって…!』
「知ってるよ。そんな所が好きなんだ」
一人で、何でも出来ちゃう癖に。
誰よりも、器用な癖に。
それなのに、私に、助けてだなんて。
「ほら、おいで。君の涙、止めてあげるから」
彼は微笑んで、手を広げて。
糸が切れた。想いが溢れた。
だから私の足は勝手に、階段を飛び降りた。
『太宰さん───!』
「えっ、ちょ───あいたっ!」
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お湯(プロフ) - 桜月さん» わわ、ありがとうございます…!1話から…!とても嬉しく思います!たくさん感想をくださりとても幸福です。こちらこそありがとうございました……!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - 櫻宮麗子さん» これからの彼女たちに幸福があるといいですね…!読んでくださりありがとうございました〜!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - 完結おめでとうございます!1話からとても素敵な作品だなと読ませて頂きました!最終回の感動と終わっちゃうんだなぁという寂しさが…!お疲れ様でした!もし次回作などあれば、楽しみにしてます!ありがとうございました!(*^^*)長文失礼しましたっ! (2019年9月9日 16時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
櫻宮麗子(プロフ) - 最終回、おめでとうございます!救われた彼女がこれからどうなっていくのかが気になります・・・!また彼女たちに会えることを楽しみにしていますね、本当にお疲れ様でした! (2019年9月9日 8時) (レス) id: 3300853b00 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - ゆきんこさん» ありがとうございます…!更新が遅れて申し訳ありませんが、どうか完結までお付き合いいただけると幸いです(*^^*)更新精一杯頑張ります…! (2019年8月27日 22時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お湯 | 作成日時:2019年6月2日 10時