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────季節外れの雪、と云うには些か早い時期だった。
日付が変わるほんの少し前の時刻。
居酒屋で一人、酒を飲んでいた帰り道、はらはらと空から雪が降っていた。
雪が降るには早すぎる。気温だってそれ程低くない。
それより───雪の降る範囲が、あまりにも狭小だ。
だとしたら、考えられるのは異能力だろうか。
そんな予想をしながら、雪を降らせている異能力者を探した。すぐ近くにいると思ったからだ。
探している途中に、一際気温が低く感じる所があった。冷気の元へ辿って行くと、着いた場所は路地裏だった。
その時だ。彼女と出会ったのは。
「────」
声が出なかった。
彼女のまわりが、凍っていた。
路地裏の辺り一面、雪と氷に覆われていた。
吐く息が白い。
まるでその空間だけ異世界のようで。
氷柱のようなものが彼女を囲むように生えていて、当の本人は膝を抱えて泣いていた。
その涙さえ、直ぐに氷の粒へと姿を変える。
(……なんて、力だ)
彼女の力が桁違いなのは、見て直ぐに分かった。
それを本人が、扱いきれていないということも。
その結果が、今降る雪だろう。
「君が氷の異能力者だね」
『……貴方、は……?…いや、そうじゃ、なくて……』
目を見開いたあと、直ぐに首をふるふると振った。
『……今すぐ逃げてください。此処にいると、きっと貴方を、凍らせてしまう……!』
「……ううん。もう大丈夫だよ」
そう微笑んで頭を撫でた───瞬間、まわりを凍らせていた氷は霧散した。
きらきらと、細やかな氷の粒が宙を舞い、やがて消えた。
『……う、そ……何で……』
そこで漸くちゃんと顔を見せてくれた。
長い睫毛。くるりと丸くて大きな瞳。華奢な身体、色の白い肌。
なんとも可憐な少女だった。
少女の目は、泣いているせいか真っ赤だ。
信じられないものを見ているような表情のまま、固まっている。
「私の異能力は、異能力の無効化なんだ。驚かせてしまったね。御免ね、お嬢さん」
『あ、貴方は……何者ですか…?』
もう一度、投げられた問い。
私は答えた。
「私の名は太宰。太宰治だ。ただの、通りすがりの男さ」
彼女は瞳を見開いたあと、深く頭を下げた。
『だ、ざいさん───有難うございます…!』
彼女はこの時初めて、笑った。
自分はその笑顔に何処か眩しさを感じて────ふいに心の中に、熱くて重いものが込み上げるような感覚を覚えていた。
これが、彼女との出逢いだった。
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お湯(プロフ) - 桜月さん» わわ、ありがとうございます…!1話から…!とても嬉しく思います!たくさん感想をくださりとても幸福です。こちらこそありがとうございました……!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - 櫻宮麗子さん» これからの彼女たちに幸福があるといいですね…!読んでくださりありがとうございました〜!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - 完結おめでとうございます!1話からとても素敵な作品だなと読ませて頂きました!最終回の感動と終わっちゃうんだなぁという寂しさが…!お疲れ様でした!もし次回作などあれば、楽しみにしてます!ありがとうございました!(*^^*)長文失礼しましたっ! (2019年9月9日 16時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
櫻宮麗子(プロフ) - 最終回、おめでとうございます!救われた彼女がこれからどうなっていくのかが気になります・・・!また彼女たちに会えることを楽しみにしていますね、本当にお疲れ様でした! (2019年9月9日 8時) (レス) id: 3300853b00 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - ゆきんこさん» ありがとうございます…!更新が遅れて申し訳ありませんが、どうか完結までお付き合いいただけると幸いです(*^^*)更新精一杯頑張ります…! (2019年8月27日 22時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お湯 | 作成日時:2019年6月2日 10時