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彼の瞳に映る私は、何処か自嘲的に笑っている。
「────」
『私がこうして断ること、貴方の頭なら分かっていたでしょう?私を本気で逃げさせたいなら、睡眠薬でも無理矢理飲ませて何処か運べば良かった。けど、貴方はそうしなかった』
それをしなかった、彼の優しさが───今は無遠慮に胸を突き刺す。
嗚呼、この時がついにやってきた。
魔法が解けるときが。
だから、私は。
この人に、さよならを云わなくちゃ。
『貴方にそんなことを云わせて、そんな顔をさせるくらいなら、私は貴方の前から消えます』
「違…、行かないでくれ…!私はもう二度と誰かを、」
『……こうなるって、分かってた。貴方も……私も』
分かっていたことだ、全部。
この人に出会った瞬間から───別れは絶対にあると。
それでも愛してしまった私は愚かで。
「……特務課に帰る心算かい?それは死に行くようなものだ。君はまた繰り返すことになる。今回は運が良かっただけ。次に生きて帰れる保証なんて何処にもない。今回のような事件が再び起こったら───君はその度に戦闘に向かわせられることになる」
『私は自分の正体を知っている。だから私は、特務課に残らなくちゃいけないんです。私という人間が、使い潰される為に』
「待て、まだ───」
『自分にとって大切な誰かの為に死ぬこと。それが、この力を持って生まれてしまった私が出来る、唯一の贖いです』
私の腕を掴む、彼の手の力が弱まる。
その手を、振りほどいた。
『私が死んだら泣いて欲しい。貴方に願うのは、ただそれだけ。たった、それだけです』
胸板を、とん、と押す。
嗚呼、離れていく。
愛しい体温が。愛しい声が。自分から、離れていく。
借りを返せないまま。
恋をしたまま。私達は、別れる。
だからこれで、さよならだ。
『さようなら、太宰さん。どうか、お元気で』
───今も貴方を、愛してます。
嗚呼、借りくらい、返したかったなあ。
なんて云ったってもう、遅いけれど。
扉の外へ出た。
髪に結んでいた黒色のリボンが解けて、落としてしまった。けどもう、いいか。
好き。愛してる。離れたくない。
今更、未練ばかりが押し寄せる。
この出来事で拾った、一つの大きな確信。それは。
『……私達は、きっと、出会ってはいけなかった……』
扉を閉じる前に見えたあの時の彼の表情を、私はきっと忘れることは無いだろう。
呟く声は誰にも届かないまま───空へと溶ける。
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お湯(プロフ) - 桜月さん» わわ、ありがとうございます…!1話から…!とても嬉しく思います!たくさん感想をくださりとても幸福です。こちらこそありがとうございました……!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - 櫻宮麗子さん» これからの彼女たちに幸福があるといいですね…!読んでくださりありがとうございました〜!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - 完結おめでとうございます!1話からとても素敵な作品だなと読ませて頂きました!最終回の感動と終わっちゃうんだなぁという寂しさが…!お疲れ様でした!もし次回作などあれば、楽しみにしてます!ありがとうございました!(*^^*)長文失礼しましたっ! (2019年9月9日 16時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
櫻宮麗子(プロフ) - 最終回、おめでとうございます!救われた彼女がこれからどうなっていくのかが気になります・・・!また彼女たちに会えることを楽しみにしていますね、本当にお疲れ様でした! (2019年9月9日 8時) (レス) id: 3300853b00 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - ゆきんこさん» ありがとうございます…!更新が遅れて申し訳ありませんが、どうか完結までお付き合いいただけると幸いです(*^^*)更新精一杯頑張ります…! (2019年8月27日 22時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お湯 | 作成日時:2019年6月2日 10時