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窓の外を眺めていた彼は振り向いて視線を私に向け、名前を呼んだ。
その瞳に、何か仄暗いものが微かに浮かんでいる気がした。
「君は昨日、ほぼ血で濡れていないところが無いくらいに、傷付いていたんだ。そんな君を見たとき、私はこう思ったのだよ」
『……太宰、さん…?』
「君を傷付つける全てを、私は許せないと」
真っ直ぐに見詰められる。
私の心の中にせり上がってくるのは、何かじりじりとした焦燥感だった。
私もまた、そんな感覚を感じながらも彼を見詰める。
「だから、ね。……逃げちゃおっか」
『……ぇ…』
「何処か遠くへ、二人で逃げてしまおう。大丈夫、私が君を守るから」
逃げる。信じられない言葉に、無意識にゆるゆると首を横に振った。
訳が分からなかった。心臓の鼓動が、重く、速い。
「……そっか。分かった。なら、こうするしかないね」
『っ、や、太宰さん…!』
私の腕を引っ張り、その場で押し倒される。
腕を掴む手に力が入っていて痛い。こんな太宰さん、初めてだ。
抵抗しても虚しく、力の無い私ではその手を振り解くことも出来なかった。
『…っ太宰さん!如何して…!』
「……何故、君なのだい……如何して君みたいな人間が、あんなに傷付かなくてはならないんだ……」
その顔を見て、私は。
抵抗する力が、抜けていってしまった。
泣き出す寸前の、子供のような顔をしていたから。
今になって、私はようやく気が付いた。
その顔をさせているのは、誰でもなく、私自身なのだ、と。
「もう一度云う。私と一緒に、逃げよう」
『太宰さん』
彼の瞳に映る私は、矢張り曖昧に笑っていた。
最早、笑うことしか出来なくなっていた。
如何して。私は彼の、"ああいうところ"と似てきてしまったのか?
私が勝手に、彼を見て覚えていてしまったのかも。仮面のような、作った笑い方を。
『私のことを思って云っているのなら、私はこう答えます。私のことは大丈夫ですから、と』
「……っ、違う、これは頼みだ。君は私に、大きな借りがある筈だ…!最後の、頼みなんだ……いいから逃げろ。逃げてくれ。今までの借りと、私への思いの全部で、どうか、頷いてくれ……」
『……ならその借りは今、返せそうにありません。だって私、図々しい女ですもの』
真っ直ぐに彼を見詰める。
その顔に刻まれる表情は怒りであり、悲哀であり───何かを云おうとした彼を遮って、私は再び口を開いた。
『貴方だって、分かっていたでしょう?』
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お湯(プロフ) - 桜月さん» わわ、ありがとうございます…!1話から…!とても嬉しく思います!たくさん感想をくださりとても幸福です。こちらこそありがとうございました……!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - 櫻宮麗子さん» これからの彼女たちに幸福があるといいですね…!読んでくださりありがとうございました〜!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - 完結おめでとうございます!1話からとても素敵な作品だなと読ませて頂きました!最終回の感動と終わっちゃうんだなぁという寂しさが…!お疲れ様でした!もし次回作などあれば、楽しみにしてます!ありがとうございました!(*^^*)長文失礼しましたっ! (2019年9月9日 16時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
櫻宮麗子(プロフ) - 最終回、おめでとうございます!救われた彼女がこれからどうなっていくのかが気になります・・・!また彼女たちに会えることを楽しみにしていますね、本当にお疲れ様でした! (2019年9月9日 8時) (レス) id: 3300853b00 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - ゆきんこさん» ありがとうございます…!更新が遅れて申し訳ありませんが、どうか完結までお付き合いいただけると幸いです(*^^*)更新精一杯頑張ります…! (2019年8月27日 22時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お湯 | 作成日時:2019年6月2日 10時