35 ページ35
.
───出会った時の感情を、今でも覚えている。
自分の周りの全てが凍り、自分の涙さえ氷の粒へと姿を変えたあの日の夜。
今思えば、異能力の暴走だったのかも知れない。
何れにしても初めてとことで、何が何だか分からず、自分でも理解出来ないものにただ怯え、人目のつかない所で蹲って泣いていた。
その時だ、あの人が触れてくれたのは。
『……貴方、は…』
「私の名は太宰。太宰治だ。ただの通りすがりの男さ」
私の頭を一撫でした瞬間、自分のまわりを凍らせていたものは霧散した。
それだけで、世界が色付いていく感覚がして。
その瞳と、光のような眩しさに。一目で、恋に落ちてしまった。
安堵よりもまず、自分に湧き出たものが恋情だなんて。
彼に云ったら、笑われてしまいそうだけれど───
* * *
目覚めた私の視界に最初に入ったのは、見たことも無い天井だった。
身体の下が柔らかくて、その感触で自分はベッドの上にいるのだと知った。
何処だ此処、と焦り飛び起きたが、すぐさま頭に激しい痛みが走り、その場で痛む場所を抑えた。
痛む頭で状況確認をするよりも先に、女の人が部屋に入ってきた。
「…目が覚めたかい、アンタ」
綺麗な女性だなあ、と思った。整った顔立ちに、切り揃えられた美しい黒髪。金属の蝶の髪飾りがよく似合っていて、空を羽ばたく本物の蝶のように可憐な女性だった。
『貴方は…』
「アタシは女医の与謝野晶子。此処は武装探偵社の医務室さ」
彼女から放たれた言葉で、記憶が戻っていく感覚がした。
その時まで見ていたものが、脳を巡るような。
『た、探偵社…!?というか、私、何で生きて…!』
「それはアタシの治癒能力の異能だ。……太宰が血相変えてアンタを此処まで運んで来たんだ」
『太宰さんが……』
あれは幻聴でも幻覚でも無かったのか。
『嗚呼、遅れて申し訳ございません。私の名前は川端Aです。えっと、与謝野さん。治していただき、本当に有難うございました』
「……それは良いけどねェ……アンタ、まだ二十歳も迎えたばかりってくらいだろう?」
『は、はい…』
「まァ、アタシはアンタの詳しい事情は知らないが…。……たったそれくらいの女が、腹に穴開けて帰ってくるモンじゃないよ」
『……!』
反射的に服を捲り、自分の腹部を見た。
傷跡も残っていなければ痛みも無い。
それ迄気が付かなかったが、服も新しいものに着替えられていた。
真っ白な、ワイシャツに。
409人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
お湯(プロフ) - 桜月さん» わわ、ありがとうございます…!1話から…!とても嬉しく思います!たくさん感想をくださりとても幸福です。こちらこそありがとうございました……!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - 櫻宮麗子さん» これからの彼女たちに幸福があるといいですね…!読んでくださりありがとうございました〜!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - 完結おめでとうございます!1話からとても素敵な作品だなと読ませて頂きました!最終回の感動と終わっちゃうんだなぁという寂しさが…!お疲れ様でした!もし次回作などあれば、楽しみにしてます!ありがとうございました!(*^^*)長文失礼しましたっ! (2019年9月9日 16時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
櫻宮麗子(プロフ) - 最終回、おめでとうございます!救われた彼女がこれからどうなっていくのかが気になります・・・!また彼女たちに会えることを楽しみにしていますね、本当にお疲れ様でした! (2019年9月9日 8時) (レス) id: 3300853b00 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - ゆきんこさん» ありがとうございます…!更新が遅れて申し訳ありませんが、どうか完結までお付き合いいただけると幸いです(*^^*)更新精一杯頑張ります…! (2019年8月27日 22時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:お湯 | 作成日時:2019年6月2日 10時