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そんな私のお願いに、彼はすぐに答えた。
「ふふ。勿論だよ、お姫様」
『……私が眠るまで、こうしてお話して貰っても良いですか?』
「嗚呼、いいとも。君の願いなら、何でも」
柔らかい声が妙に心地好くて、目を瞑りながら話をした。
顔など見えないのに、画面越しで彼はひどく穏やかで優しい表情をしている気がした。
───気が付けば電話をかけてから三十分程が経過していた。話していた内容は私の昔の話だった。
『それで、あの時……』
「嗚呼……君確か、少し前までは遠くに住んでたんだっけ?」
『はい。此処からずっと離れた、とても小さな田舎町ですよ。
とても長閑な所で…冬になると、雪がたっくさん積もるんです。…それこそ、「雪国」のように』
語る声に懐古が滲む。
ヨコハマに来て二年と少しくらい───たったその位なのに、故郷はひどく懐かしく感じる。きっと毎日、目が回りそうな程に忙しいからだろう。
この街の大学に行こうとしたからヨコハマに来たのだが、そこで私はスカウトされたのだ。
「特務課に来ないか」、と。
あの日のことは今でもよく覚えている。忘れられる筈が無い。
「…君は、帰りたいと思ったことはある?」
『……勿論ありますよ。私は家族も友達も皆大好きでしたから。…でも、もう少しだけ、此の儘でも良いかなって思うんです』
「如何して?」
『……もう少しだけ、もっとちゃんとした、大人になってから会いたいんです。異能の扱いも…人間的にも、もっと』
「……そっか」
二人の間に沈黙が降りる。耳に届くのは時計の秒針が進む音だけ。
暫く黙り込んでいた私達だが、先に口を開いたのは私の方だった。
『……それじゃあ、私そろそろ寝ますね。すみません、こんな夜遅くに…ありがとうございました』
「嗚呼待って」
その声と共に───玄関から、ガチャリと音がした。当然、玄関の鍵は閉めている。
開けられるのは、合鍵を持っている彼しかいない。
駆け足で玄関に向かった。
『……っ、太宰、さん』
「ほら。矢っ張り泣いてたじゃないか」
『太宰、さん……太宰さん…!』
「うん。君の、君だけの、太宰治だ」
ふわりと笑って、私を抱き締めたあと頭を撫でる。ここにある体温が嬉しくて、また涙が零れてきた。
何だかんだで、彼と会うのは久しぶりなのだ。
最近は私の仕事が忙しくて会う暇など無かったから。
『…会いに来てくれたんですか?』
「嗚呼。君に会いに来たんだ。…ほら、運んであげるから」
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お湯(プロフ) - 桜月さん» わわ、ありがとうございます…!1話から…!とても嬉しく思います!たくさん感想をくださりとても幸福です。こちらこそありがとうございました……!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - 櫻宮麗子さん» これからの彼女たちに幸福があるといいですね…!読んでくださりありがとうございました〜!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - 完結おめでとうございます!1話からとても素敵な作品だなと読ませて頂きました!最終回の感動と終わっちゃうんだなぁという寂しさが…!お疲れ様でした!もし次回作などあれば、楽しみにしてます!ありがとうございました!(*^^*)長文失礼しましたっ! (2019年9月9日 16時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
櫻宮麗子(プロフ) - 最終回、おめでとうございます!救われた彼女がこれからどうなっていくのかが気になります・・・!また彼女たちに会えることを楽しみにしていますね、本当にお疲れ様でした! (2019年9月9日 8時) (レス) id: 3300853b00 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - ゆきんこさん» ありがとうございます…!更新が遅れて申し訳ありませんが、どうか完結までお付き合いいただけると幸いです(*^^*)更新精一杯頑張ります…! (2019年8月27日 22時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お湯 | 作成日時:2019年6月2日 10時